AI同時翻訳技術を大阪・関西万博で世界へ発信。ポケトークなどに見る多言語翻訳の未来とは

画像:ポケトーク発表資料より引用

総務省、グローバルコミュニケーション開発推進協議会、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は3月11日、「第5回自動翻訳シンポジウム」をオンラインで開催しました。同イベントではAIを活用した多言語自動翻訳技術の現状や、2025年を見据えた今後の方向性などを発信。有識者による講演、パネルディスカッションも実施されました。

グローバルコミュニケーション開発推進協議会の須藤修会長は「グローバル社会において、言葉の壁は極めて重要な課題」とし「当協議会には220を超える団体が参加している。自動翻訳で2025年の大阪・関西万博を支援したい」とあいさつ。金子恭之総務大臣もビデオメッセージで「総務省として、AI同時翻訳技術を大阪・関西万博で世界へ発信していきたい」と意気込みを語りました。

進化を続ける翻訳バンク

基調講演には、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター特任教授の丸山宏氏が登壇。「Software 2.0とデジタルトランスフォーメーション」をテーマに、自動翻訳技術の裏側について、具体的事例などを発表しました。

NICTの隅田英一郎フェローは「自動翻訳の素材を蓄える翻訳バンク」について講演。自動翻訳の研究がスタートして75年。2017年に総務省とNICTは自動翻訳の高度化に必要なデータを集積する「翻訳バンク」を立ち上げました。

「TOEICスコアは900点レベルになった。ポケトークに見られる通訳機能やGoogle翻訳、DeepL翻訳などが“使える”」とした隅田氏。「日本語と英語、中国語と日本語などペアの対訳データで情報を集積する。量はもちろん、模範となる質の高いデータが必要となる。翻訳バンクはコミュニティとつながり、官民連携も果たした。点から領域へ進化している」と、進捗を報告しました。

利用者の選択肢が増える

パネルディスカッションには基調講演を行った丸山氏、ソースネクスト株式会社常務執行役員の川竹一氏、マインドワード株式会社の菅谷史昭氏が参加。「2025年に向けた多言語翻訳の将来展望」について意見を交換しました。丸山氏は自身で1冊の本を英訳出版。新たに書き下ろした部分の翻訳例を提示するなどし、具体的な改善点や留意点を発表しました。「機械翻訳システムはそれなりに心の準備をして使えば、本1冊を英訳するのにも使えるレベルのツール」と結論を出しています。

シリーズ累計出荷台数が90万台を突破した「ポケトーク」を手掛ける川竹氏は、新型コロナウイルス収束後のインバウンドにおける商機損失と、言語的マイノリティへの対応を課題と指摘。端末販売だけでなく、ポケトークアプリやポケトーク字幕といったサービスを展開していきます。

医療や法令、特許、製薬といった専門用語の翻訳が長年の課題でした。菅谷氏は「Google翻訳などに見られるような、一般でも“ワカル”翻訳をカスタマイズすることで出版補助が可能なレベルの“デキル”翻訳に飛躍している。汎用と専用を使い分けることで、自動翻訳エンジンにおける利用者の選択肢が広がるのではないか」と期待を寄せています。

海外旅行やビジネスシーンなど、言語の壁を感じることは多々あるでしょう。グローバルで自由なコミュニケーションを実現させるための様々な研究やサービスが、着々と進んでいます。