今回はロボットアームの機構や仕組み、構造について解説します。
本記事を読めば、ロボットアームの種類を把握できるため、自社に必要なものがわかるでしょう。ロボットアームの導入を検討している企業さまは、ぜひ参考にしてください。
目次
ロボットアームとは
ロボットアームとは、産業用ロボットを構成する要素のうち、人間の腕に似た働きをする部分です。産業用ロボット単体を指す場合だけではなく、複雑なシステムの一部である場合もあります。
熟練作業者のような高度な動きが可能なため、医療現場業界から自動車製造現場、食品加工ラインまで幅広く利用されています。
ロボットアームの種類は多く、用途に合わせて最適なものを選択していかなければいけません。
ロボットアームの構造
人間の腕に似ている構造であり、ジョイント(関節)とリンク(骨)から構成されています。ここでは、ジョイトンとリンクについて詳しく解説していきます。
ジョイント(関節)
ジョイントとは、人間でいえば手首や肘、肩にある関節などです。ジョイントは、以下の2つに分類されます。
- 回転ジョイント:回転運動を行う
- 直動ジョイント:直進運動を行う
回転ジョイントは人間の関節そのものを指し、自由自在に伸縮や回転が可能です。一方で、直動ジョイントは人間にないもので、直線上に伸び縮みを行います。ロボットアームは、回転ジョイントまたは直動ジョイント単独のものや、それぞれを組み合わせて構成されるものなどさまざまです。
また、回転ジョイントはメンテナンスが容易でコンパクトであるため、産業用ロボットで多く採用されています。ジョイントはリンクの方向を変えられるため、数が多いロボットアームでは滑らかな動きが可能です。
リンク(骨)
リンクは人間の骨に当たる部分で、ジョイントとジョイントの間にある棒状の部分です。ジョイントの動力を伝える重要な役割があります。リンクは以下の2つに分類されます。
- パラレルリンク
- シリアルリンク
パラレルリンクは1つのリンクに対して、ジョイントが複数接続されている構造です。一方で、シリアルリンクは、人間の腕と同じく、ジョイントとリンクが一直線に配置された構造を指します。
シリアルリンクの方が可動域が広い特徴があります。一方でパラレルリンクは可動域が狭いものの、速度や精度が高いのが特徴です。
ロボットアームと人間の動きとの違い
ロボットアームと人間の動きには共通点がある一方で、異なる要素も存在します。ここでは、ロボットアームの各軸と人間の動きの違いについて解説していきます。
第1軸:腰(土台)の回転
ロボットアームの第1軸である土台は、人間で例えると腰の部分です。ロボットアームの基礎に当たる部分で、一般的には壁や天井などに固定されています。
また、人間の腰とロボットアームの土台は、どちらも左右に回転ができます。双方の違いは、回転できる角度です。人間の腰は、左右に回転できる角度に限界があります。一方で、土台は360度回転が可能で、可動域が広いのが特徴です。前方から後方への運搬も容易に行えます。
第2軸:肩の関節(アーム全体)の動き
第2軸はアーム全体の動きであり、人間で例えると肩の関節です。アーム全体を上下に動かして、高さを調整する役割を果たしています。
人間の肩は、水平方向に運動できます。一方で、ロボットアームの場合は水平方向に動かすには、土台と同時に動かさなければいけません。土台とアーム全体の動きを組み合わせることで、人間により近い動きを可能にしています。
第3軸:肘の関節(アーム中央部分)の動き
第3軸はアーム中央部分の動きで、人間で例えると肘の関節部分です。第3軸は、アームの中央部分を曲げたり伸ばしたりする役割を担っています。
人間の肘は曲げ伸ばしの動きがメインですが、ロボットアームの場合は回転を加えることが可能です。人間の肘も回転の動きはありますが、ロボットアームの方が可動域が広いです。そのため前面にあるものだけでなく、上下にあるものを固定したり掴んだりできます。
第4軸:手首(ハンドとの接合部分)の回転
ロボットアームの第4軸はハンドとの接合部分で、人間で例えると手首に当たります。第4軸は、手首と同じように左右に回転することが可能です。ただし、可動域が360度と、手首よりも広いのが特徴です。
回転動作が実現できるからこそ、人間ではできない動きができるようになっています。
第5軸:手首(ハンドとの接合部分)の曲げ
ロボットアームの第5軸は第4軸と同様にハンドとの接合部分で、人間で例えると手首に当たります。第4軸は回転の動きであるのに対して、第5軸は曲げる動作です。
手首に対して、ロボットアームの第5軸は可動域が広いのが特徴といえます。人間の手首は曲げる角度に限界がありますが、第5軸は回転の動作を加えることで、より広い可動域を実現しています。
第6軸:指先(ハンドの先端部分)の回転
ロボットアームの第6軸は、ハンドの先端部分で、人間で例えると指先です。人間の指先は回転運動ができず、必ず手首や肘の回転が加わって指先が回転します。
一方で、ロボットアームのハンドの先端部分は、単体で回転が可能です。ネジ締めの作業で活躍します。
ロボットアームが関節を動かすのに必要な仕組み
ここでは、ロボットアームが関節を動かすために必要な仕組みを4つ解説します。
アクチュエータ
アクチュエータは、ロボットアームのジョイント部を構成している要素です。エネルギーを機械的な動きに変換するデバイスの総称です。
アームを回転させたり、屈曲させたりなど、さまざまな動作に変換しています。つまり、ロボットアームを人間の腕のように動かすには、アクチュエータが不可欠です。
また、単純なモータでは精度が低くなるため、サーボモータと呼ばれる速度や位置が制御できる高機能なモータが使用されます。
アクチュエータのほとんどが電気で駆動していますが、油圧が使われることもあります。油圧式アクチュエータは最大出力が大きく、耐衝撃性があるのが特徴です。
減速機
ロボットアームを動かすだけであれば、アクチュエータだけでも問題ありません。ただし、アクチュエータのモータが限界を超えると、回転ができなくなります。そこで必要になるのが減速機です。減速機とモータが連携することで、出力を最大まで引き出せるようになります。
仕組みとしては自転車のギヤと同じで、ギヤを変えることで出力が変化するのが特徴です。減速機のギヤを変えることで、モータの回転力以上の力を出力できるのです。一般的には、アクチュエータと減速機はペアで構成されます。
エンコーダ
ロボットアームのエンコーダは、位置や角度を正確に測定するための装置です。ジョイントやモータに設置されているエンコーダは、ロボットアームの位置情報をデジタル信号として発信する役割を担っています。
一般的には、光学式エンコーダが採用されています。光学式エンコーダはスリットを通り抜けた光パルスの信号を、電気信号に変えて出力しているのが特徴です。モータが回転して光が通り抜けた回数で、角度や速度がわかる仕組みです。
伝導機構
アクチュエータ・減速機の運動や力を伝達するための装置が伝導機構です。伝導機構が設置されていなければ、アクチュエータや減速機の力が伝わらずロボットアームは作動しません。大きな特徴は、機構によって力の向きや強度を調整できる点です。
自転車で例えると、チェーンの部分が伝達機構に当たります。
ロボットアームの種類
ロボットアームは、主に7種類に分かれます。ここでは、それぞれのロボットの特徴を紹介します。
垂直多関節ロボット
ロボットアームのなかでも広く普及しているのが、垂直多関節ロボットです。垂直多関節ロボットは、複数のジョイントとリンクから構成されています。人間の腕の構造を模した回転可能なジョイントにより、複雑で滑らかな動きが実現できます。可動域が広く、回り込んでの作業も得意としています。
主な用途は、以下の通りです。
- 対象物の搬送
- 製造ラインでの組み立て
- 金属部品の溶接
- 組み立て作業でのネジの固定
垂直多関節ロボットは汎用性が高く、幅広い作業に対応できます。例えば、垂直多関節ロボットは回り込み動作により、360度に広がる製造ラインでの組み立て作業も可能です。また、垂直多関節ロボットはジョイントが多くなればなるほど、人間の腕に近い動きを実現できます。
ただし、制御やメンテナンスが複雑なため、専門業者を雇ったり呼んだりしなければならない場合があります。
スカラロボット
水平多関節ロボットとしても知られるスカラロボットは、水平方向にアームが動作する産業用ロボットです。スカラロボットは日本で開発されました。
一般的には、複数の回転ジョイントと先端にある1つの直動ジョイントから構成されます。水平方向への移動が簡易かつ上下方向の剛性が高いのが特徴だといえます。また、コンパクトな構造であるため、省スペースでも設置できるのもメリットです。
主な用途は、以下の通りです。
- 部品の押し込み作業
- ネジ締め
- 基板の組み立て
- 箱詰め
さらに、スカラロボットの先端は上下方向に機敏に動けるため、対象物を高速に掴んで離す作業に用いられることもあります。箱詰めやネジ締めを、人の代わりに担うことが多いです。
参照スカラロボット(水平多関節ロボット)とは?種類や活用事例・おすすめメーカー8選
パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットは、デルタロボットと呼ばれることもあります。天井から吊り下げる形で設置される、パラレルリンク構造の産業用ロボットです。
3本のアームを用いているものが最も一般的です。複数のモータの力を先端部分に集中させることで、精度の高い作業ができます。
主な用途としては、以下の通りです。
- 食品の整列
- ピッキング
- ラベリング
多関節ロボットに比べるとジョイント数が少なく宙吊りになっているため、回り込みが必要な細かい作業よりも高速なピッキング作業が得意です。特に、製造ラインでの作業で、特徴を活かせます。
参照パラレルリンクロボットとは?企業で導入するメリット・デメリットや事例を紹介!
直交ロボット
直交ロボットは、複数の直動ジョイントだけを組み合わせたシンプルな構造のロボットです。スライド軸から構成されるため、ガントリーロボットとも呼ばれます。クレーン車が、対象物を釣り上げているのをイメージするとよいでしょう。移動は直線的なものに限定されるため、制御が容易です。
主な用途は、以下の通りです。
- 組み立て
- 搬送
- 加工
また、設計の自由度が高いのも特徴です。近年では多関節ロボットと組み合わせることによって、より幅広い業種で対応できる直交ロボットも増えてきています。さらに、構造がシンプルであるため、生産技術部門で自社製造する企業も多くあります。
参照直交ロボットとは?おすすめメーカー15社や導入事例・メリットまで紹介
双腕ロボット
双腕ロボットとは、ロボットの胴体から2本のアームが伸びており、人の上半身のような構造のロボットアームです。1つのアームから構成される単腕ロボットとは違って、2つの腕を上手に使うことで、より複雑な作業が実現できます。
ただし、人ができる作業の代用として作られているため、重い荷物を運べないデメリットがあります。
双腕ロボットのアームには、垂直多関節型ロボットとスカラロボットが採用されるのが一般的です。
単腕ロボットを2つ導入しようとすると、2つ分の設置場所が必要です。しかし、双腕ロボットを導入すれば1体にアームが2つあるため、省スペースで設置ができます。
極座標ロボット
極座標ロボットは、砲台に似た構造をしているロボットアームです。具体的には、台座中心にある2つの回転ジョイントと、アームにある1つの直動ジョイントで構成されており、伸縮と上下回転が可能です。
台座の回転とアームの上下回転で作業方向を決定し、アームの伸縮で作業位置を決定します。ただし、アームの先端姿勢は伸縮の具合によって変わるので、微妙な調整が必要です。
主に半導体業界で、液晶パネルの運搬時に利用されています。初期に広く普及していましたが、現在ではあまり使用されていないので、導入している企業は珍しいでしょう。ちなみに、国産第1号の極座標ロボットは、川崎ユニメート2000型です。
円筒座標型ロボット
円筒座標型ロボットは、極座標ロボットと同様に伸縮アームが特徴のロボットアームです。土台にある回転ジョイントと、アームを上下前後に動かす直動ジョイントで構成されています。そのため、極座標ロボットは垂直方向に回転する一方で、円筒座標型ロボットは垂直方向に移動する仕組みです。
円筒座標型ロボットは、極座標ロボットと同じく初期の頃に多く普及しました。現在でも、液晶パネルの運搬時に活用している企業があります。
ロボットアームは先端(エンドエフェクタ)を交換して機能を追加できる
ロボットアームの先端、つまりロボットハンドは人の指先に当たる部分です。人の手は指先で何かを掴んだり、道具を持ったりすることで作業ができます。ロボットアームの先端は、作業目的にあったものを取り替えることで人間と同じ作業が可能です。
ロボットアームの先端は、エンドエフェクタと呼ばれます。エンドエフェクタは、以下のようにさまざまな種類が存在します。
- 把持ハンド:人の指に似てる構造で対象物を掴むのが得意
- 吸着ハンド:把持ハンドが掴むのに対して、対象物をパッドに吸着させて運ぶ
- 用途別専用ハンド:用途別に構造を変更して対応する
自社環境に応じて適切なエンドファクタを選択する必要があるため、導入前に確認をしておきましょう。
ロボットアームの導入方法
ロボットアームの導入を検討している企業さまのなかには、導入方法がわからない、自社に最適なロボットがわからないこともあるでしょう。
ロボットの導入で悩んでいる場合は、ロボットSlerの利用がおすすめです。ロボットSIerとは、ロボットのシステム提案や設計、導入などを行ってくれる企業を指します。
参照ロボットSIer(ロボットシステムインテグレータ)とは?導入事例や補助金・おすすめメーカー5選まで
「ロボファン」はロボットSlerを紹介するサービスです。産業用ロボット導入時の悩みや補助金など、丁寧にお答えします。また、導入目的に応じて、最適なロボットSlerの紹介が可能です。
ロボットアームの導入でお悩みの企業さまは、一度ご相談ください。
まとめ
今回は、ロボットアームの仕組みや機構、種類などについて解説しました。人間の腕に似た構造の垂直多関節ロボットは、回転と上下運動を組み合わせることで、複雑な動きが実現できます。そのため、製造ラインや物流倉庫など、幅広い現場で採用されています。
ロボットアームの検討に悩まれている方は、ロボットSlerを活用するのがおすすめです。「ロボファン」では、企業に合わせたロボットSlerを紹介しています。お気軽にお問い合わせください。
おすすめのロボットアームのメーカーに関しては下記記事をご覧ください。
参照産業用のロボットアームとは?おすすめメーカー20選を紹介