ロボットハンドの機構とは?設計や特徴・選び方まで解説

今回は、ロボットハンドの機構の概要や特徴、種類を解説します。この記事を読むことで、ロボットハンドの選び方の解説を通じて、自社に最適なロボットハンドを理解できます。ロボットハンドを導入予定の企業の皆さま、ぜひ参考にしてください。

ロボットハンドの機構とは

ロボットハンドの機構は、簡潔にいうとロボットハンドの内部構造や仕組みです。具体的には、指や関節、拳の3つから構成されており、制御装置とアクチュエータがそれぞれに組み込まれています。

また、把持ハンドと呼ばれる対象物を掴むタイプと、吸着ハンドと呼ばれる対象物をくっつけるタイプの2種類があります。

以下で、指・関節・拳の機構と設計をそれぞれ詳しくみていきましょう。

指の機構・設計

ロボットハンドの指は、対象物を掴かんだりくっつけたりするうえで、とても重要な役割があります。

ゴムやウレタン樹脂などの柔軟性が高い素材を関節に利用し、人に近い動きを実現しているのが特徴です。基部にあるギアやモーターによって、指先に駆動力を伝えています。さらに、対象物を落下させないために、手袋のようなクローと呼ばれるものが装着されています。

また指は、精密な制御や摩擦対策により、さまざまな対象物に対応できるように設計されています。例えば、精度を上げるためにモニターを内蔵したり、摩擦対策のために表面にクロムメッキやニッケルメッキを使用したりなど、さまざまです。

用途別に指の本数・素材・形状・サイズを、さまざまな組み合わせで設計しています。

関節の機構・設計

ロボットハンドは多関節機構で、高い自由度を持ち、高度な操作が実現できるように設計されています。一方で、単関節で重いものを掴むために設計されているものもあるのです。

関節には軽量なアルミニウム合金が使用され、ギアやモーターなどが内蔵されています。また、トルクセンサーや力覚センサーも組み込まれており、正確な位置の検知が可能です。

ほかにも、人の手首の関節構造に近づけたり、高負荷に耐えられるようにしたりすることで、高い精度と繊細な動作が可能です。

ロボットハンドは、場所を取るイメージがある方もいるかもしれません。しかし、関節の小型化によって、軽量でコンパクトなロボットハンドが開発されています。

拳の機構・設計

ロボットハンドの拳は、以下から構成されています。

  • パーム
  • フィンガーアレイ
  • グリップパッド
  • ワイヤー

パームとは人間の平らな拳部分であり、穴が開いているのは指などを固定するためです。素材には、軽量ながら強度の高いアルミニウムを利用するのが最も一般的です。

フィンガーアレイは握力を調整する役割を持ち、指を固定する部品がついています。

また、グリップパッドは握力を調整するもので、摩擦耐性が高く柔軟性のあるシリコンの使用が一般的です。

指先やモーターは、ワイヤーによりつながっています。

ロボットハンドの機構の2種類

ロボットハンドの機構は、主に以下の2種類です。

  • 把持ハンド
  • 吸着ハンド

それぞれ概要や対象物などについて、以下でみていきましょう。

把持ハンド

把持ハンドとは対象物を掴んで持ち上げたり、固定したりできるロボットハンドです。形状は人の指に似ており、指の数や掴む方法にはバリエーションがあります。多種多様なデザインがありますが、対象物を掴む形式のロボットハンドはすべて把持ハンドと呼ばれます。

また、単関節機構と呼ばれるシンプルな構造もありますが、より繊細な動作を求めるのであれば、自由度の高い多関節機構がおすすめです。

対象物の大きさや形、硬さなどに応じて、指の本数や圧力の強さなど設計を変えられるため、さまざまな対象物に対応可能です。

吸着ハンド

対象物を掴む把持ハンドとは違って、吸着ハンドは対象物を吸着させて持ち上げたり運んだりするロボットハンドです。真空のエネルギーを利用して吸着させるタイプもあれば、磁力によって吸着させるタイプもあります。

真空型吸着ハンドはパット数が選択でき、パット数が多い方が対象物をしっかりと吸着可能で安定性が高いです。

また、真空型の吸着ハンドは、ほとんどの対象物を掴めるのが特徴です。一方で、磁力型の吸着ハンドは磁石にくっつく金属製のものしか吸着できません。

対象物は若干異なるものの、いずれの吸着ハンドも平らな部分がある対象物を運ぶのに適しています。

それぞれの詳しい説明は下記記事をご覧ください。

ロボットハンドの種類ロボットハンドとは?種類や選ぶ際の注意点・活用事例を詳しく解説

ロボットハンドの特徴

2種類のロボットハンドには特徴があり、掴める対象物などが変わってきます。以下で解説するので、みていきましょう。

把持ハンドの特徴

把持ハンドは幅広い用途で使用されるため、5本指以外にもさまざまなタイプがあります。特に多指型の把持ハンドは繊細な作業が得意で、崩れやすい食品や医療機器などを把持可能です。

また、圧力を調整することで薄いものや硬いものなど、さまざまな対象物を器用に掴めるのも特徴です。

把持ハンドの3つの特徴について、以下で解説するのでみていきましょう。

一般的に指の本数は2~5本

指の本数は、2〜5本の把持ハンドがほとんどです。小さくて軽量の対象物では2本指の把持ハンドが使用され、一方で複雑な形状や重い対象物では3本以上の把持ハンドが選択される傾向があります。

また、5本指を備えた把持ハンドは、把持パターンが変わる小さなネジを掴むなど、高精度な作業が得意です。

繊細な作業ができる

3本以上の指を備えている把持ハンドは、繊細な動作が得意です。特に5本指は人の手に近い形になっており、その分繊細な動作が実現されています。

そのため、食品や医療機器などの慎重な取り扱いが必要な対象物に対して、傷つけずに把持可能です。また、食器などの傷がつきやすい対象物に対しては、指の形状をなめらかにしてソフトに掴めます。

また、把持ハンドの掴む力をプログラミングで調整すれば、形が崩れやすい素材であってもきれいな状態で掴めるのが特徴です。このように把持ハンドでは精細な作業が可能で、人でも難しい対象物を掴めます。

強力な圧力で対象物をしっかりと掴める

把持ハンドの圧力が強くなればなるほど、対象物をしっかりと掴めます。例えば、溶接や切断などの作業では、対象物を固定する力が必要です。また、溶接や切断などの作業は人が行うと危険が伴うため、把持ハンドに任せている企業もあります。

対象物に応じて圧力を調整すれば、柔らかい対象物から重い対象物まで落下させずに把持可能です。

吸着ハンドの特徴

続いて、吸着ハンドの特徴について、以下で詳しくみていきましょう。

真空パッドに対象物を吸着させて運べる(タイプもある)

吸着ハンドのなかには、真空パッドを用いて対象物を吸着させ、それを持ち上げて運ぶタイプも存在します。真空型の吸着ハンドは真空発生器を使用して真空を生成し、対象物を真空パッドに吸着させるメカニズムです。金属をはじめ多くの材質に使用ができるので、工場ラインの選別や小さいものを運ぶ場面で導入されています。

しかし、多孔質や表面に穴が開いている対象物などでは、真空状態を作ることができないため使えません。多孔質の対象物の例には、紙や発泡スチロールが挙げられます。多孔質の場合は、把持ハンドの利用が一般的です。

電磁石で吸着させれる(タイプもある)

吸着ハンドには、電磁石を利用して吸着させるタイプがあります。電磁石のオンとオフをスイッチで切り替えることで、対象物を掴んだり離したりしています。

鉄などの磁力に引きつけられる材質であれば、すべて吸着が可能です。そのため、多孔質の対象物でも、磁力に反応するものであれば吸着が可能です。例えば、スチールスポンジや金網などが挙げられます。しかし、非金属の対象物は吸着できないので、用途が限定されます。

対象物の素材や材質によって、真空タイプか電磁石タイプか適切に選択をして導入をしましょう。

吸着パッドの数は使うものによって異なる

吸着ハンドのパッド数は、対象物に応じて異なります。対象物が重いものであったり、繊細なものであったりする場合には、パッド数が最も多い6点式の活用がおすすめです。一方で、軽いものや小さいものが対象である場合は、パッドの数が少なくても安定して対象物を運べます。

ロボットハンドの選び方

ロボットハンドのデザインや材質、形状などは、対象物に応じて適切なものを選ばなければいけません。ここでは、ロボットハンドの選び方について解説するので、みていきましょう。

対象物の重さ

必要な指の数やパッドの数、圧力強度などは、対象物の重さに応じて異なります。例えば対象物が重ければ、高把持力の把持ハンドや、パッド数が多い吸着ハンドが適切です。それぞれ安定性が増し、落下防止につながるからです。

また、重さが異なる複数の対象物へ適用する場合には、把持力を細かく調整できる電動型の把持ハンドがおすすめです。

対象物の材質

ロボットハンドは基本的に、どんな対象物でも掴めるのが特徴です。ただし、対象物が多孔質であったり非金属であったりする場合には、吸着パッドでは吸着ができないため把持ハンドを採用する必要があります。

また、対象物が多孔質でかつ小さい場合は多指型の把持ハンドを導入するなど、対象物の材質に応じて適切なロボットハンドを選びましょう。

対象物の形状

対象物の形状に応じて、ロボットハンドの指の本数やサイズを調整しなければいけません。例えば、形に凹凸がある対象物は、吸着ハンドではなく把持ハンドの方が適切な場合があります。把持ハンドの繊細な動きで、複雑な形の対象物でも掴めるからです。

一方で、吸着ハンドはパッドにくっつけて掴むため、平らでない対象物には使用できない場合もあります。

対象物の硬度

把持ハンドの圧力の強さは、対象物の硬度に合わせて調整しなければいけません。対象物が硬いときには、圧力を高めて安定性を増す必要があります。一方で、柔らかい対象物であれば、形を崩さないまたは破損しないように圧力を弱めなければいけません。

ただし、柔らかい対象物だからといって、圧力を低く設定しすぎると掴む力まで弱くなってしまいます。対象物をしっかりと掴む必要があるにもかかわらず、落下させてしまう可能性があってはいけません。

対象物を掴むのに必要な力がわからない場合には、対象物の硬度に合わせて把持力を自動で調整できる把持ハンドを選ぶのも一つの方法です。

ロボットハンドの耐久性

把持ハンドは定期的にメンテナンスを行えば、中長期的に使用可能です。

一方で、吸着ハンドのパッドは経年劣化により、故障のリスクがあります。そのため、吸着パッドは定期的に購入するための費用がかかるデメリットがあります。吸着ハンドを使う場合は、定期的にパッドの購入費用がかかる点に注意しましょう。

長期的にロボットハンドを活用するうえでは、耐久性も重視する必要があります。

ロボットハンドの作業速度

把持ハンドよりも、吸着ハンドの方が作業速度が早い傾向があります。把持ハンドは繊細な動作が得意ですが、対象物を掴んだり離したりする作業に時間がかかります。

逆に、吸着ハンドは電磁力のオンとオフを切り替えるだけで、簡単に対象物を掴んだり離したりが可能です。そのため、作業速度を求めるのであれば、吸着ハンドを採用するのがよいでしょう。

おすすめのロボットハンドメーカーに関しては下記記事をご覧ください。

ロボットハンドメーカーロボットハンドメーカー25選!導入事例や選ぶ際の注意点

ロボットハンドの導入事例

ロボットハンドの導入事例について、以下で紹介します。

川崎重工株式会社

食品・飲料業界のある工場では、袋入り食品の箱詰め工程の不安定な生産体制を改善するために、異なるサイズの箱を自動的に処理できて、かつ機能拡張が可能なセルを求めていました。

箱詰めを自動化するために、ロボットSlerが川崎重工社の小型汎用ロボットである「RS007L」の導入を支援しました。そこに真空グリッパーを取り付け、袋物製品のハンドリングを実現したのです。

製品の落下が心配されていましたが、落下なしで毎分80袋の箱詰めが可能になりました。また、2〜3人の作業者を別作業に再配置できるようになったため、生産性をアップできました。

アイコクアルファ株式会社

アイコクアルファ株式会社の精密冷間鍛造部品は国内はもちろん、欧米主要自動車メーカーで使用されています。

同社では、自動車部品の超精密金属加工工程を人が手作業で行っていました。作業の効率化を図るのにロボットの導入は必須でしたが、大量不良の可能性や位置決めなど厳しい課題がありました。

そこで、三菱電機株式会社の垂直多関節ロボット「RV-7FLM-Q」を導入して、ハンドリング方法を工夫。自動化により、労働時間は11時間から8時間まで削減できました。さらには、無人でも稼働できるようになったため、大幅に労働生産性がアップしました。

美和電気株式会社

美和電気株式会社は、測定器や制御機器などの製造を行っている会社です。

磁気反転表示器の表示部であるディスクには、カラーシートを貼り付ける作業が発生します。非常に薄い樹脂にカラーシートを貼り付ける必要があるため、熟練の技が必要で生産性に限界がありました。

そこで、ファナック株式会社の「FANUC Robot M-1iA」を導入。具体的には、吸着ハンドで次工程へ搬送し、カラーシートを貼り付ける仕組みを構築しました。ロボット導入前は、1日当たり300個だった生産量が900個まで増え、労働生産性は3倍向上しました。

ロボットハンドの導入方法

ロボットハンドの導入には、ロボットSlerの活用がおすすめです。ロボットSlerとは、ロボットを活用して企業が抱える問題を分析して、システムを構築したり、運用したりしてくれる専門の業者です。

ロボットSIerロボットSIer(ロボットシステムインテグレータ)とは?導入事例や補助金・おすすめメーカー5選まで

ロボファン」では、ロボットハンドに精通したロボットSlerを紹介しています。自社に最適なロボットSlerを知りたい場合には、ぜひご活用ください。

まとめ

ロボットハンドの機構は、把持ハンドと吸着ハンドの2種類に分かれます。把持ハンドは、人のような指の形で繊細な動きができます。一方で、吸着ハンドは掴む・離す動作の切り替えが得意なロボットハンドです。

ロボットハンドの導入や設計を早く進めたい場合には、「ロボットSler」の活用がおすすめです。ロボファンでは、多くの分野で導入実績を持つ優秀なロボットSlerを紹介しています。ぜひ一度、ご相談ください。