多関節ロボットとは、関節を複数個持つ産業用ロボットです。
今回は、多関節ロボットの仕組みやおすすめのメーカー、導入事例についてわかりやすく解説します。
本記事を読めば多関節ロボット導入のメリットとデメリットを把握でき、多角的な視点から導入を判断できるでしょう。多関節ロボットの導入を検討中の企業の皆さまは、ぜひご覧ください。
目次
多関節ロボットとは
多関節ロボットとは、日本の産業規格を定めた「JIS B0134」において、腕に3つ以上の関節を持つロボットと定義されている機械です。多関節ロボットには、垂直多関節ロボットと水平多関節ロボットがあります。
垂直多関節ロボットは、アームが垂直方向に動く多関節ロボットです。自由度の高い動きができるため、汎用性が高い特徴があります。
一方で水平多関節ロボットは、アームが水平方向に動く多関節ロボットです。スカラロボットとも呼ばれ、押し込む作業を得意とします。
多関節ロボットの仕組み
多関節ロボットは、アームの運動方向を決める関節と、関節同士をつなぐリンクから成り立っています。そして、リンクの先には実際に作業を行うハンドピースが取り付けられています。
多関節ロボットは、サーボモーターにより可動部分である関節を動かし、リンク部分を移動させながらハンドピースを目的の位置へ移動させる仕組みです。
また、先端に取り付けるエンドエフェクタの種類によって、商品を挟んだり塗布や溶接を行ったりと、さまざまな場面で活躍します。
多関節ロボットでできること
多関節ロボットは、以下のようにさまざまな動きが可能です。
- 商品を挟んで移動させる
- ネジを締める
- 穴あけ加工をする
- 水を噴射し洗浄する
- スプレーで塗布する
- 溶接を行う
- 部品の配置をする
- 組み立てを行う
また、多関節ロボットは先端につけるエンドエフェクタの種類によって、作業内容を柔軟に変更できます。そのため同じ多関節ロボットで、複数の工程に導入ができます。
多関節ロボット導入のメリット・デメリット
多関節ロボットを使用するのであれば、導入前にメリットとデメリットを理解するとよいでしょう。ここでは、多関節ロボット導入のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
メリット
多関節ロボットにはたくさんのメリットがあるため、多くのケースで活用されています。多関節ロボットの主なメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 作業効率が上がる
- 細かい動きも可能
- 省スペース化できる
- 汎用性が高い
- 危険な作業を担える
自社へ導入する必要性を検討するためにも、それぞれ確認しておきましょう。
作業効率が上がる
多関節ロボットを導入するメリットとして、作業効率が上がる点が挙げられます。多関節ロボットは、人と異なり24時間稼働ができます。休業日や営業時間外でも、故障などがない限り作業し続けるため、生産性が上がるのです。
また、多関節ロボットは同じ作業を正確に遂行できるため、ヒューマンエラーによる作業効率の低下も防げます。そのため単純作業や同じ工程を繰り返し行う作業において、多関節ロボットを導入すれば作業効率が大幅に向上します。
細かい動きも可能
多関節ロボットは複数の関節があるため、関節が少ないロボットでは不可能な細かい動きもできます。
例えば、小さな部品をつかんだり、回り込みが必要な作業を行ったりできるようになりました。熟練者にしかできないような、繊細な工程でも多関節ロボットを使えるメリットがあるのです。
これにより、従来は熟練の技が必要だった作業も多関節ロボットが担えるようになりました。少子化によって継承が危ぶまれていた技術を、再現できるようになったのです。
省スペース化できる
多関節ロボットであれば、省スペース化が実現できます。
多関節ロボットのなかには、卓上で設置できる小型タイプがあります。小型タイプは設置面積が小さい場所でも導入できるため、スペースを広くとれない狭い工場などでも活躍します。
汎用性が高い
多関節ロボットは、汎用性が高い点もメリットの1つとして挙げられます。多関節ロボットのアームは人の腕のように自由度が高いため、多種多様な作業で柔軟に対応できます。
また、エンドエフェクタを交換すれば、溶接や塗布、組み立てなど幅広い作業内容に対応可能です。多関節ロボット1体でさまざまな工程へ導入できるため、汎用性が高いといえるでしょう。
危険な作業を担える
多関節ロボットには、危険な作業を担えるメリットもあります。人体に悪影響を及ぼす作業やけがなどのリスクが高い作業に対して、多関節ロボットを導入すれば、働く人の安全性を確保できます。
特にヒヤリハットの報告が多い現場など、危険性が高い作業に対しては多関節ロボットを積極的に導入するとよいでしょう。
デメリット
多関節ロボットはたくさんのメリットがある産業用ロボットですが、デメリットも存在します。
- メンテナンスが必須
- トラブルの可能性
それぞれ詳しく解説するので、導入を検討しているのであれば多関節ロボットのマイナス面も理解しておきましょう。
メンテナンスが必須
多関節ロボットは導入するだけで活躍し続けるわけではありません。特に多関節ロボットはほかのロボットと比べて関節数が多いためエラー故障が発生しやすく、部品メンテナンスが必須です。
多関節ロボットのメンテナンスは高度な技術が必要なためロボットSlerなどの有識者に依頼するのも一つの方法です。
トラブルの可能性
きちんとメンテナンスを行っていても、トラブルが発生する可能性がなくなるわけではありません。例えば、関節部分の破損により作業停止エラーがでたり、摩擦による経年劣化で故障したりするケースが珍しくありません。
多関節ロボットのトラブルは、ロボットSlerなどの有識者に頼るとスムーズに解決できます。
多関節ロボットメーカー5選
ここでは、おすすめの多関節ロボットメーカーを5社紹介します。各メーカーによって扱う多関節ロボットの特色が異なるため、参考としてご覧ください。
株式会社デンソーウェーブ
大手産業用機器メーカーの株式会社デンソーウェーブでは、多関節ロボットの「VS-050/060」を取り扱っています。本体はコンパクトでありながらも、スピードとパワーを兼ね備えた多関節ロボットです。
最大リーチはVS-050で505ミリ、VS-060で605ミリで、どちらも最大可搬質量は4キロです。
川崎重工株式会社
川崎重工株式会社では、「カワる、サキへ。」を理念にロボット開発を行うメーカーです。
同社の「RSシリーズ」では、最大可搬質量にして3キロから80キロまで、大小さまざまな機種をそろえています。なかでも、小型汎用ロボットの「RS013N」は軽量化を実現し、RSシリーズ内でトップクラスのスピードを誇っています。
ファナック株式会社
ファナック株式会社では、世界に270以上のサービス拠点を持ち、産業用ロボットの累計出荷台数は100万台を超えるなど、信頼性の高い会社です。
同社では、ミニロボットの「LR Mate 200iD」やスカラロボットの「SRシリーズ」を手がけています。
ヤマハ発動機株式会社
ヤマハ発動機株式会社はバイクやスクーターで有名ですが、多関節ロボットなどの産業用ロボットも手がけています。
「XY-Xシリーズ」では、重量物の運搬に適したものから長距離の搬送ができるものまで幅広く提供され、さまざまな用途で活用されています。
ABB株式会社
ABB株式会社は、スイスに本社を置く多国籍企業です。さまざまな市場でトップクラスのシェアを誇り、産業用ロボットにも力を入れています。
同社では「IRBシリーズ」を展開しており、溶接や組み立て作業で活用できるモデルなど多種多様な多関節ロボットを開発しています。
多関節ロボットの導入事例
ここでは、多関節ロボットの活用事例を5つ解説します。自社の運用を活かすためにも、それぞれの活用事例をチェックしましょう。
株式会社 トーユー
株式会社トーユーは、仙台市に本社を置く印刷会社です。
ダイレクトメールの加工工程において、できあがった製品に対して帯がけや箱詰めを手作業で行っていました。作業者のスキルによって生産量にバラつきがあるうえ、作業者の高齢化や人手不足が課題でした。
そこで、ファナック株式会社の垂直多関節ロボット「200iD 7L」を導入したのです。
導入の結果、生産数が2倍になり、従来4人体制で行っていた作業を2人でできるようになりました。
浅井農園
株式会社デンソーウェーブでは三重県にある浅井農園の協力のもと、トマト収穫ロボットの「FARO」を開発しています。深刻な就農者不足や就労者の高齢化が課題となっている農園を救うべく、自動収穫ロボットの開発が始まりました。
最近のテスト運用では、FAROにより1房を20秒程度で収穫できるようになっています。
有限会社マルミフーズ
有限会社マルミフーズでは、大根おろしをパック詰めにして販売しています。パックした大根おろしは冷凍するため冷たくて滑りやすく、出荷用の段ボールに詰める際に人手や負担がかかる点が課題でした。
そこで、川崎重工株式会社の「RS020N」やコンベヤシステムなどの箱詰め工程の自動化システムを導入しました。
多関節ロボットと複数の自動機器の組み合わせにより、出荷用段ボールへの箱詰めを自動化できたのです。自動化に成功した結果、従来4〜5人で行っていた箱詰め工程を1〜2人で行えるようになりました。
株式会社八百彦商店
株式会社八百彦商店は、奈良県を中心にスーパーマーケットを展開している会社です。
スーパーマーケットにおいて、陳列商品がなくなると売り上げの減少に直結するため、棚の在庫を確認しなければなりません。しかし、ほかの業務もありなかなか手が回らない状況でした。
そこで株式会社デンソーウェーブが、ドリンクの自動配膳用に垂直多関節ロボットの「VS-050/RC8」を開発しました。
本格的な導入により、労働生産性がデモ機による理論値では50倍に向上し、人手不足の解消につながると期待されています。
塩沢化工株式会社
塩沢化工株式会社は、業務用の食器トレイを作っている会社です。
プラスチックトレイは圧縮と成形を行ったあとに、仕上げ加工を行います。この仕上げ加工には熟練した技術が必要であり、工数も多く難しい作業でした。
そこで、安川電機株式会社の垂直多関節ロボット「MOTOMAN-HP20F 」を導入したところ、過酷作業の削減に成功し、熟練度によらず安定して仕上げ加工をできるようになりました。
多関節ロボットの導入方法
多関節ロボットの導入を検討しているけれど、種類が多くてどの多関節ロボットが適切なのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ロボット導入で悩んでいる場合には、ロボットSIerを活用するとよいでしょう。ロボットSIerとは、ロボットを使ったシステムの導入を提案したり、設計や組み立てを行ったりする企業です。
ロボファンでは、ロボットSIerを紹介しています。
現場視察に基づいた導入計画の判断や作業の選定、初期段階で導入診断をしっかりと行います。そのうえ、導入後のアフターサポートもあるので、安心してロボットを導入できます。
プロに任せてロボットによる自動化と効率化を実現しましょう。
まとめ
多関節ロボットを導入すれば、作業効率が向上したり、省スペース化につながったりと、さまざまなメリットが得られます。
一方で、メンテナンスが必要であったり、トラブルの可能性があったりとデメリットがあるのも事実です。多関節ロボットのメリットとデメリットから総合的に判断し、導入を進めましょう。