人件費の削減は、飲食店の経営者が直面する最大の課題の1つです。原材料費の高騰や最低賃金の上昇といった経済状況の厳しさに加え、労働時間の増加も人件費を押し上げています。
今回は、人件費削減に向けた具体的なステップと注意点について詳しく解説します。記事の後半では、昨今注目されている配膳ロボットや接客ロボットなども紹介しており、最新のお役立ち情報が満載です。ぜひ最後までご覧ください。
目次
人件費が飲食店経営を圧迫している理由
飲食店における人件費の増加は経営の大きな課題となっています。その主な要因は次の3つです。
- 食財源化の高騰
- 最低賃金アップ
- 労働時間の増加
詳しくみていきましょう。
食材原価の高騰
総務省の発表によると、2023年5月時点における食料品の物価指数は2020年より12%以上も上昇し、この影響が飲食店にも波及しています。また、シンクロ・フードの調査では、90%以上の飲食店が原材料費の高騰を実感しているとの結果も。
原材料費の高騰が続くなか、FL比率(食材費と人件費の売上に対する比率)を維持するためには人件費の削減が必要です。その結果、多くの飲食店が人件費削減の動きを見せています。
最低賃金アップ
2022年度の最低賃金引き上げ額は全国加重平均で31円となり、全国の加重平均最低賃金は961円です。最低賃金の引き上げにより、フルタイムで働く従業員1人当たり年収で約6万円の増加が見込まれ、その負担は従業員の数だけ増大します。
最低賃金の引き上げによる人件費の増加は、飲食店経営の負担を増大させており、経営の難易度を高めています。
労働時間の増加
コロナ禍における人流制限措置の緩和に加え、インバウンド需要や「全国旅行支援」などが追い風となり、来客が急激に増えました。その影響から、人手不足が深刻な飲食店業界では、時間外労働も増えています。
時間外労働は、通常時間を超えた労働時間に対して割増賃金が発生するため、人件費の増加要因となります。時間外労働の増加を実感している従業員も40.6%と非常に高く、人件費増加の背景が明らかになりました。
参照人手不足に対する企業の動向調査(2022年10 月)(帝国データバンク)
飲食店の人件費を削減するにはどうする?
人件費の削減方法は、オペレーションの簡略化や人員配置・採用コストの見直しなど多岐にわたります。ここでは、人件費の削減手順を順番に解説します。
まずは現状を把握しよう
人件費削減の一歩は、現状の把握から始まります。なかでも、売上高人件費率のチェックは特に重要です。
また、人員配置やスタッフ一人ひとりの労働時間を把握し、福利厚生費や研修費などの間接的な人件費も考慮に入れましょう。
働きやすい環境を整備し生産性を向上する施策を講じるうえで、従業員の満足度や離職率の把握も重要です。
売上高人件費率の確認
売上高人件費率とは、売上高に対する人件費の割合を示す指標であり、人件費削減を考えるうえでとても大切な数値です。売上高人件費率は、30%以下が一般的な目標といわれています。人件費削減の取り組みを可視化するためにも、まずは現状の人件費率を確認しましょう。
オペレーションの簡略化
次に、注文の受付・商品の提供・会計処理・閉店後の清掃など、一連のオペレーションを簡略化できないかを検討してください。例えば、閉店後の床清掃を掃除ロボットに任せるなどで労働時間を節約し、人件費削減につなげましょう。
人員配置の見直しをし労働時間を減らす
また、ピークタイムとアイドルタイムに応じた人員配置の見直しも大切なポイントです。例えば、アイドルタイムを1時間ごとに分割し人材配置の無駄を最小限に減らすなど、自店の混雑具合に応じて細かく見直すとよいでしょう。
人材育成をし生産性を上げる
人材育成は店舗の生産性を向上させ、長期的な人件費の削減に大きく貢献する強力な手段です。スキルアップを通じて優秀なスタッフを内部から確保し、労働の効率性を上げていきましょう。例えば、厨房とホールの役割分担を再考し、すべての業務に対応できるオールラウンダーを育成するのも1つの選択肢です。
採用コストの見直し
採用コストも人件費の一部であり、その削減は経営に貢献します。例えば、求人広告の費用や転職エージェントへの手数料など、採用に関するコストを見直しましょう。
また、スタッフが長く働き続けられるように、良好な労働環境を作り出すことも大切です。これらにより、スタッフの離職率を低下させ、結果として採用に必要なコストが削減できます。
AI・ロボットの活用
AIやロボットの活用は、人件費削減のためにとても有効な手段です。例えば、厨房にロボットを導入し、調理に必要な労働力を補完すれば、効率的な経営の助けとなるでしょう。
また、AI・ロボットの導入は、人件費削減だけでなく従業員の負担軽減にもつながります。例えば、すかいらーくグループでは、ネコ型配膳ロボット「BellaBot」を導入し、配膳をロボットに任せています。その結果、勤務中の歩数が42%も減り、従業員の身体的負担を軽減することに成功しています。
AIやロボットを活用し、人件費の削減と従業員の働きやすい環境づくりを実現しましょう。
人件費削減をする際の注意点
人件費削減は、飲食店の経営を効率化するうえで欠かせない施策ですが、その過程で注意すべき点がいくつか存在します。1つずつ見ていきましょう。
従業員の負担が増える場合がある
人件費削減を推進する飲食店は、従業員の負担が増えるリスクを考慮しなければなりません。人員配置のバランスを見誤れば、少ない人員での店舗運営に無理が生じ、従業員の負担が増える場合も考えられます。
このような状況を考慮に入れ、時短営業やメニュー数削減など、規模縮小も視野に入れた計画立案が必要となるケースがあるでしょう。
顧客満足度の低下が起こる場合がある
人件費削減のために人員を減らした結果、サービス品質が低下し、顧客満足度が低下する可能性があります。特に、飲食店やホテルなど、直接顧客と接するビジネスでは慎重に考えましょう。
このリスクを防ぐためには、売上・人件費・クレーム数のデータを適切に分析し、最適な人員配置や労働環境の改善が重要です。
離職者が増加する場合がある
人件費削減の施策は、従業員の離職を誘引する可能性があります。特に、給与や賞与のカットは、従業員のモチベーションを大きく下げる可能性があるため、慎重な判断が必要です。
そのため、賃金とモチベーションのバランスを考え、適切な人員配置や給与制度の見直しが求められます。
法的リスクに注意
人件費削減の一環として希望退職者の募集や退職勧奨を行う場合、法的リスクに注意が必要です。適切な手続きを踏まずに行うと、違法行為に問われる可能性があります。
そうならないためにも、労働基準法やパワハラ防止法などを遵守し、法律家や専門家に確認のうえ実施しましょう。このプロセスを怠ると、企業の信頼性が失われる可能性もあります。人件費削減施策に違法性がないか、十分注意が必要です。
まとめ
飲食店経営における人件費削減は、業績改善のカギとなる重要な戦略の1つです。そのため、労働時間の調整や人員配置の最適化、AI・ロボットの活用による効率化など、さまざまな手段を駆使しながら課題を解決していきましょう。
人件費削減に取り組む一方で、従業員の負担軽減と顧客満足度の維持、法的リスクの考慮など、経営者の役割を全うする必要もあります。そのすべては、経営の持続性と店舗のブランド価値を保つための基盤となるため、決して無視できません。
常に変化する経済環境と技術の進化を見据え、自店の課題と戦略を見直し続けましょう。