作業環境の改善や人手不足をカバーするために、自律移動ロボットの導入を検討している方もいるのではないでしょうか。しかし、自律走行ロボットはどのような役割を果たすのか、疑問に感じる方も多いでしょう。
今回は、自律移動ロボットの活用事例や注意点、おすすめのメーカーを紹介します。本記事を読むことで自律移動ロボットの性能が把握でき、導入する際の判断材料として活用できます。自律走行ロボットの導入を迷っている企業の皆さまは、ぜひ最後までご覧ください。
目次
自律移動ロボットとは?
自律移動ロボットとは、あらかじめ設定された地図データを参考に、周辺環境を把握しながら自律的に移動するロボットです。通称「AMR(自律走行搬送ロボット)」とも呼ばれています。
自律移動ロボットでは、ロボットの位置推定と環境マップの作成が同時に行える「SLAM」が採用されています。SLAMにより人や障害物に干渉することなく、目的地まで移動できます。
間違いやすい!AGV(無人搬送車)とAMR(自律走行搬送ロボット)の違い
AGVとAMRの主な違いは、自ら障害物を検知して走行できるかどうかです。AGVは走行ルートを磁気テープやガイドを用いて設定し、設定されたルートを走行して目的地まで荷物を搬送します。
一方でAMRはカメラやセンサーなどの技術を活用し、自らルートを設定して走行します。人や障害物も自動で検知し、環境に応じて搬送ルートの構築が可能です。
自律移動ロボットの主な種類
自律移動ロボットは、さまざまな種類に分けられます。主な種類は以下の通りです。
- 近接監視と操作を備えたオンサイト型
- ロボットを目視できる範囲に保安要員を備えたセミリモート型
- 保安要員を配置せずとも遠隔操作・監視が可能なフルリモート型
- 遠隔監視しながら無人で自律走行が可能なモニタリング型
- 監視そのものを必要としないフルオートノマス型
上記のうち、現在開発が急速に進められているモデルはセミリモート型とフルリモート型です。できるだけ人員を必要とせずに、ロボットのみで運用ができる環境作りが進められています。
自律移動ロボットの活用事例
実際に自律移動ロボットを導入し、作業環境の改善を果たした企業もあります。ここでは、自律移動ロボットを導入した5社の活用事例を紹介します。
自律移動ロボットの導入で、どのような課題の改善が可能か、見ていきましょう。
株式会社きくや美粧堂
「株式会社きくや美粧堂」では、高額商品をほかの商品とは異なる専用のピッキングエリアで管理しています。通常の作業場とは離れたピッキングエリアから出荷場まで、長い距離を運搬しなければならない点が課題でした。
そこで搬送業務を住友重機械の「KeiganALI」に任せた結果、作業員の体力面の負担軽減に成功。タブレットでの操作もしやすく、音声による現在位置の把握が容易なことも、導入してよかった点に挙げています。
株式会社ホリゾン
「株式会社ホリゾン」では、中間加工エリアから仕上げ加工用機械までの部品の運搬用に「KeiganALI」を導入。小ロットながら頻度の高かった部品搬送の自動化が実現し、作業時間の短縮につながりました。
またKeiganALIではAPIが公開されており、アタッチメントやシステムのカスタマイズが可能です。ホリゾンでは独自にリフターと関連システムを開発し、部品の引き渡しと受け取りの自動化にも成功しました。
SBS東芝ロジスティクス株式会社
「SBS東芝ロジスティクス株式会社」では、大型家電を扱う倉庫でのフォークリフト運転手が不足していました。人員の不足にともない、作業員がピッキング作業や運搬を残業で対応していたことから、ZMP社の自律移動ロボット「CarriRo」の導入を決断します。
CarriRoに搬送作業を任せることで、作業時の移動にかかる割合は導入前と比較して9%も削減し、1名程度の工数の削減にも成功しました。
水野産業株式会社
「水野産業株式会社」では、物中センター内で包材等のピッキング・搬送作業に、長さが180センチメートルのロングカートを使用しています。そのため重たいカートを手で押して搬送する必要があり、作業員の体力面の負担が課題でした。
そこで、ZMP社の「CarriRo」を導入。CarriRoにロングカートを連結し作業者に追従させることにより、搬送業務の負担を大幅に軽減できました。またCarriRo自体にも荷物を載せられるため、導入前よりも多くの荷物が運搬可能となった点も、改善点の一つとして挙げています。
北海道ロジサービス株式会社
「北海道ロジサービス株式会社」の江別物流センターは、延床面積が約17,000坪と広く、1つの商品を運ぶにも長距離移動を強いられ、作業時間が長時間に及んでいた点が課題でした。
そこで「CarriRo」を導入した結果、CarriRo1台につき6台のロングカートのけん引を実現。その結果、作業員の移動距離が導入前の6分の1に減り、作業時間を大幅に短縮できました。
自律移動ロボットの市場動向
自律移動ロボットの技術は年々向上し続け、さまざまな市場への参入が進んでいます。ここでは、主な研究成果と現時点での市場規模について解説します。
主要な研究成果と開発状況
近年、研究・開発が進む「自律走行ロボットを活用した自動配送プロジェクト」と「自律型移動ロボット向けインターフェース」について、それぞれの研究成果と開発状況を紹介します。
LOMBY株式会社は自動配送プロジェクトとして、置き配ロボット「LOMBY」の開発を進めています。過去の実験では、住宅ロッカーへの荷物の運び入れや、玄関先に荷物を置くなどの実証実験に成功してきました。2023年4月の道路交通法の改正で、公道での自動配送ロボットの使用が認められました。これにより、2023年度中のLOMBYの商用利用を目指しています。
また東芝と国立研究開発法人のNEDOは、「AMR-IF」と呼ばれるロボットと運行管理システムのインターフェースの仕様を策定しました。現在メーカーごとにロボットの運行管理システムを開発し、独自のインターフェースにてロボットと接続しています。そのため、別メーカーのロボットを導入した際に、新しくシステムの開発が必要でした。そこでAMR-IFの活用で、異なるメーカーのロボットでも共通のシステムでの運用が容易になり、コストの削減も期待できます。現在、AMR-IFが移動ロボットの標準インターフェースとなるようにプロジェクトを進めています。
自律移動ロボットの市場規模(世界と日本の違い)
自律移動ロボットの市場規模は、年々拡大しています。ここでは、世界と日本の今後の市場規模について解説します。
世界
自律移動ロボットの世界市場は、2021年から2026年の間に15.12%の年平均成長率を達成すると予想されています。特に北米では国内外でのセキュリティ面の脅威や、テロ活動の増加が要因となり、自律移動ロボットの需要が上がり続けています。
また中国でも、2022年から2030年にかけての年平均成長率が21%まで増加し、2030年には157億米ドルの市場規模となることが予想されています。
日本
2022年度は半導体不足が続いたものの、各メーカーが前年度のうちに供給体制の改善を図り、プラス成長見込みとなりました。
2023年度以降も、人手不足や設備投資需要の高止まりが続く見込みです。2025年度は出荷数量9,950台、出荷金額274億9,000万円にまで成長が予想されています。
自律移動ロボットが直面する課題
自律移動ロボットの導入でさまざまな効果を得ている事例もありますが、未だ多くの課題を抱えている状態です。ここでは、自律移動ロボットが直面する課題について3点紹介します。
法的枠組みの整備
2022年4月27日に「改正道路交通法」が施行され、遠隔操作型自動配送ロボットの公道での走行が認められました。公道での走行が認められ、人に頼らずとも目的地までロボットが荷物を運べる環境が整いつつあります。
しかし、今回認められたのは人が遠隔で操作をするタイプのため、自律移動ロボットは対象外です。自律移動ロボットを使った実験を行っている機関もありますが、実用化にはさらなる法律の改正が必要です。
安全性と事故時の法的責任
自律移動ロボットを公道や多くの人が行き交う場所で導入するには、安全性の確保が不可欠です。安全面での懸念点として、人との衝突によるけがや、物の破損による損害賠償リスクなどが挙げられます。
しかし現状では、自律移動ロボットによる事故が発生した場合に、責任の所在が明確になっていません。そのためロボットの普及を進めるにあたって、法的責任の整備も進める必要があります。
技術者の確保と育成
自律移動ロボットの開発は、ソフトウェアの開発能力や人の行動に関連する洞察力などの知識を要するため、一筋縄ではいきません。日本は少子高齢化や他国への引き抜きなどによる、技術者の育成と確保が課題です。
技術者不足の現状を受けて、各教育機関ではロボット開発に関するノウハウを教育する取り組みを進めています。
自律移動ロボット導入時の注意点
ここでは、自律移動ロボットを導入する際の注意点について解説します。自律移動ロボットを安全に導入するために重要な内容です。それぞれ導入前にチェックしておきましょう。
ロボットの大きさとバッテリ充電の管理
工場や物流倉庫内で自律移動ロボットを使用する際には、ロボットが安全に走行できるための十分な通路幅が必要です。「労働安全衛生法」では、通路幅を80cm以上にするよう規則が設けられています。
自律移動ロボットは通路上の荷物を持ち上げて回転し、向きを変える場合があります。通路幅の最低基準でも正常に動作できるように、ロボットの旋回直径が80cm以下に収まるようにしなければなりません。
またバッテリ充電型のロボットを採用する場合には、非稼働中のロボットの業務をどのようにカバーするかを考える必要があります。また非接触給電型のロボットでは、レーンの設置にかかるコストも考慮しなければなりません。
このように自律走行ロボットを導入する際には、導入環境や予算に合わせたバッテリ充電の管理も重要です。
リスクアセスメントの実施
自律移動ロボットは、自動で人や障害物を検知して未然に事故を防ぐ仕組みです。しかし、許容範囲以上の荷物を運搬させていた場合、バランスを崩して荷物が作業員に当たる可能性も考えられます。
そのためロボットを使用する場合、想定されるリスクを洗い出し、対策を講じるといったのリスクアセスメントが重要です。
自律移動ロボットのおすすめメーカー6選
自律移動ロボットの開発・提供している企業は、国内外問わずさまざまあります。ここでは、自律移動ロボットのおすすめメーカーを6社紹介します。
日本サポートシステム株式会社
「日本サポートシステム株式会社」は、製造実績10,000台以上を誇る関東最大級のロボットシステムインテグレータです。多くのお客さまの対応を行ってきた経験を活かし、装置の開発や量産、保守まで一貫した対応が可能です。
若手社員から30年以上も装置開発を担当してきたベテランまで、2021年4月時点で約130名のエンジニアが在籍し、ロボットの導入前に自社設備での検証や、導入時には実機でのティーチングにも対応しています。
また日本サポートシステム製のロボットの導入後は、ロボットの保守・点検作業にも対応し、サポート体制も万全です。
株式会社匠
「株式会社匠」は、自律移動ロボットの企画からアフターメンテナンスまで一貫したサービスを提供する企業です。
同社では地図情報にはない障害物を避けながら運搬可能な「TiTra S」や、隊列を組んで搬送する「ANT」など、多種多様なロボットを開発しています。
また協働型自律搬送ロボットの提供を他社と共同で実施し、さまざまな企業とともに自律走行ロボットの普及に取り組んでいます。
株式会社ZMP
「株式会社ZMP」は、物流ロボット「CarriRo」シリーズ等を展開し、物流倉庫や工場など多様なシーンで活躍するロボットを提供しています。
シリーズの1つである自律走行ロボットの「CarriRo Basic」は、顧客のニーズに合わせてパレットの積載等の用途を変更できる機能を多数搭載しています。同社はCarriRo Basicのような高機能ロボットにより、さまざまな企業のコストの削減や効率的な作業の実現に貢献してきました。
IDECファクトリーソリューションズ株式会社
「IDECファクトリーソリューションズ株式会社」は、FAシステムやロボット、図書館システムなどさまざまな領域で事業展開をしています。
また自律移動ロボット「MiR」の正規代理店として、人手不足の解消や生産性の向上など、課題解決のサポートも行っています。
住友重機械工業
「住友重機械工業」は、精密機械や建設機械、船舶などさまざまな業界へ装置やシステムを提供している企業です。自律移動ロボットの提供もしており、工場内での搬送作業や物流倉庫におけるピッキング作業の効率化に貢献してきました。
例えば同社が販売する「KeiganALI」は、マップ作成やタスクの設定をWebアプリで簡単にできる点が特徴です。この例のように同社では、利用者の「使いやすさ」を重視したロボット開発にも力を入れています。
Standard-Robots
「Standard-Robots」は、中国に本社を構えており、工業用移動ロボットの開発と製造を専門とする企業です。ローカル5G環境対応ロボット等の最先端技術を活用したロボットを多数開発し、生産性の向上に貢献しています。
例えば、停止誤差を10ミリ程度に抑えることが可能な「Oasis2000E」等の高性能なロボットからわかるように、同社は業界トップレベルの技術力を有しています。
まとめ
自律移動ロボットは、あらかじめ設定された地図データをもとに、人の操作が不要で自律的に移動できるロボットです。また磁気テープやガイドの設置が必要なく、カメラやセンサーを用いてルートの構築が可能な点も特徴です。
自律移動ロボットを導入している企業では、人員の削減や移動距離の削減を実現しています。今回紹介した事例のように自律走行ロボットの導入により作業環境の改善につながるため、積極的に導入を進めていきましょう。