産業用ロボット特別教育にかかる費用は?教育機関や費用相場を紹介

産業用ロボットを扱うには、安全のために特別な教育を受ける必要があります。そのため「どれくらいの費用がかかるのか」と、気になる方も多いのではないでしょうか?

この記事では、産業用ロボット特別教育の概要や費用、受講できる場所について詳しく解説します。最後まで読めば、どのような教育やカリキュラムを従業員に受けさせるべきかを理解できます。特別教育の費用面について詳しく知りたい企業の皆さまは、ぜひご覧ください。

産業用ロボット特別教育とは

産業用ロボットを扱う労働者は、特別教育を受ける必要があると法律で定められています。ここでは、特別教育とはどのような内容なのか、義務付けられている理由、必要性を解説します。

詳しくはこちら産業用ロボット特別教育とは?安全と効率を両立させる必須資格を取得しよう!

特別教育とは何か

特別教育とは、事業者が労働者に受けさせなければならない安全や衛生に関する特別な教育です。厚生労働省のホームページにて、以下のように明記されています。

一定の危険・有害な業務に労働者を就かせるときは、事業者は、その業務に関する安全または衛生に関する特別の教育を行わなければなりません(労働安全衛生法第59条第3項(特別教育))

また、特に危険・有害な業務については、免許や技能講習など必要な資格を有する者でなければ、その業務に就くことが禁止されています(労働安全衛生法第61条(就業制限))。

引用厚生労働省 労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など

特別教育を受けていない者が労働安全衛生規則第36条に定められた危険な業務に就くことは、法律上禁止されています。

受講が義務付けられている理由

特別教育の受講が義務付けられている理由は、危険・有害な業務での労働災害や事故を防ぐためです。産業用ロボットに関する作業も危険な業務に分類されており、事故による死傷者が毎年発生しています。

特別教育を受けることにより、産業用ロボットの誤運用や人為的なミスを防ぐ必要があります。

受講対象者とその必要性

産業用ロボット特別教育の受講対象者は、以下の業務を行う作業者です。

  • 産業用ロボットの教示(ティーチング)等の業務
  • 産業用ロボットの検査等の業務

産業用ロボットの教示および検査の業務は、ロボットの可動範囲内に入り作業をする業務が該当します。そのため機械の動作に巻き込まれる危険性が高く、専門知識や技術が必要とされています。

協働ロボットは特別教育の受講対象外

協働ロボットとは、人間と一緒に働くことを目的に作られたロボットです。協働ロボットは、以下の2種類に分けられます。

  • 出力が80W以下のモーターで構成されている
  • 80W以上のモーターが使われているが、ISO規格に準じている

協働ロボットは労働者と共同で作業をするため、安全基準が高く設定されています。ロボットのなかでも比較的安全性が高いため、協働ロボットに関わる従業員は、産業用ロボットの特別教育の受講対象外です。

産業用ロボット特別教育のカリキュラム

産業用ロボット特別教育の内容は、労働安全衛生規則第39条の規定に基づいて定められています。ここでは、教示と検査に関する特別教育の内容を紹介します。受講予定のカリキュラムが規定内容通りか、確認する際の参考にしてください。

教示作業に関する教育内容

産業用ロボットの教示作業に関する特別教育は、学科と実技を受講する必要があります。学科の教育内容と受講時間は、以下の表の通りです。

科目 内容 受講時間
ロボットに関する基礎知識 産業用ロボットの種類や機能・運用方法について 2時間
教示作業の知識 教示作業の方法・危険性・関連機械との連動方法 4時間
関係法令 法、令及び安衛則中の関係条項 1時間

参考産業用ロボツトの教示等の業務に係る特別教育 表

また学科で学んだ内容を踏まえて、実際に産業用ロボットを使った実技演習を行います。

実技内容 受講時間
産業用ロボットの操作方法 1時間
産業用ロボットの教示方法 2時間

参考産業用ロボツトの教示等の業務に係る特別教育

これらの学科・実技は、記載時間以上の受講が必要です。

検査作業に関する教育内容

産業用ロボットの検査作業に関する特別教育も、学科および実技教育を受講する必要があります。学科の教育内容と受講時間は、以下の表の通りです。

科目 内容 受講時間
ロボットに関する基礎知識 産業用ロボツトの種類・制御・駆動・構造・機能・運用方法および制御部品の種類・特性 4時間
検査作業の知識 検査作業の方法・危険性・関連機械との連動方法 4時間
関係法令 法、令及び安衛則中の関係条項 1時間

参考産業用ロボツトの検査等の業務に係る特別教育 表

また学科内容に加え、産業用ロボットを実際に使用し操作や検査の方法を学びます。

実技内容 受講時間
産業用ロボットの操作方法 1時間
産業用ロボットの検査方法 3時間

参考産業用ロボツトの検査等の業務に係る特別教育

教示作業に関する特別教育と同様、検査に関わる特別教育の学科・実技は記載時間以上の受講が必要です。

特別教育の受講にかかる費用相場

産業用ロボットの特別教育にかかる受講費用は、教育内容や受講期間により異なります。ここでは、特別教育の受講にかかる費用相場について紹介します。

教育内容と時間に応じた費用

教育内容別の時間と費用相場を以下の表にまとめました。

教育内容 最低必要時間 主な受講日数 費用相場
教示作業に関する教育 学科7時間

実技3時間

3日 3~6万円
検査作業に関する教育 学科9時間

実技4時間

3日 3~5万円

上記は学科と実技をセットで受ける場合の例ですが、別々に受講できる教育機関もあります。また学科のみを受講する場合は、学科と実技をセットで受ける場合よりも費用が1~2万円ほど高くなる傾向にあります。

受講場所や機関による費用の違い

受講場所や教育機関により、費用に違いがあります。例えば労働基準協会連合会の特別教育は、連合会ごとで費用が異なり、千葉県と京都府では5,000円もの差があります。

特別教育の内容 協会名 受講費用
学科のみ 千葉県労働基準協会 会員 7,700円(税込)
学科のみ 京都労働基準協会 会員 15,400円(税込)

また受講場所だけではなく、割引を設けている教育機関もあります。例えば産業用ロボットのメーカーで実施される特別教育では、ロボット購入により特別教育が無料となる機関もありますので、申込前に費用を確認しましょう。

産業用ロボット特別教育を受けられる場所と費用

産業用ロボットの特別教育は以下のような場所で開催されています。

  • 都道府県の労働基準協会連合会
  • 産業用ロボットメーカー
  • 専門の教育機関

ここでは、産業用ロボットの特別教育を受けられる上記3種類の機関とそれぞれの費用を紹介します。

都道府県の労働基準協会連合会

各都道府県の労働基準協会連合会での特別教育は、学科のみの場合や、産業用ロボット向けの講習がない場合など、協会により内容が異なります。

また、協会の会員と非会員とでは受講費用が変わります。以下の表に一例をまとめましたので、労働基準協会連合会での受講を検討する場合は参考にしてください。

特別教育の内容 協会名 受講費用
学科のみ 静岡労働基準協会 12,000円(税込)

テキスト代込み

学科と実技 愛知労働基準協会 会員  33,000円(税込)

非会員 38,500円(税込)

なお、テキストは「産業用ロボットの安全必携」が使用され、一律1,980円(税込)です。

産業用ロボットメーカーでの受講

次に、代表的な産業用ロボットメーカー5社の産業用ロボット特別教育について、具体的な条件や費用を紹介します。

デンソー

デンソーでは、特別教育の教示コースをオンラインで受講できます。

また、実技をデンソー本社または受講者の指定場所で受講する「オンデマンド講座」も開催してます。各講習の内容や費用は、以下の通りです。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
教示コース(WEB版) 学科のみ 期間中自由 無料
オンデマンドコース 実技のみ 要相談 半日(4時間)コース:110,000円(税抜)

1日(8時間コース:220,000円(税抜)

なおデンソーの特別教育を受けるためには、ロボット購入者向けに開催している「ロボットスクール基本コース」を修了する必要があります。

ファナック

ファナックでは、ロボットの種類や受講日数により複数のコースが用意されています。また、受講方法も対面・LIVE配信・コンテンツ配信の3つから選択できます。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
ロボット教示・操作基本コース 学科と実技 4日 110,000円(税込)
ロボット操作短期習得コース 学科と実技 2日 55,000円/人(税込)
ロボット操作初心者コース 学科と実技 3日 88,000円/人(税込)
ロボット保守コース 学科と実技 4日 110,000円/人(税込)
ロボット操作・保守コース 学科と実技 4日または5日 165,000円/人(税込)

ファナックの研修施設はゲストハウスも備えているため、宿泊して受講することも可能です。泊まりで受講をする場合、1人あたり1泊5,500円(税込)が受講費用に加えて必要となります。

安川電機

安川電機では一般的な産業用ロボット特別教育だけでなく、中国語での講習や特殊技能とあわせたセット講習を取り扱っています。費用がそれぞれ異なりますので、以下に具体例を挙げます。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
産業用ロボットの教示等特別教育 学科と実技 2日 40,000円(税抜)/人
産業用ロボットの検査等特別教育 学科と実技 2日 50,000円(税抜)/人
中国語

【簡体字】または【繫体字】

産業用ロボットの教示等特別教育

学科と実技 2日 140,000円(税抜)/2人
教示等特別教育+

アーク1日コース

学科と実技

溶接実技

3日 65,000円(税抜)/人
産業用ロボットの教示等特別教育

オンサイトコース

学科と実技 2日 142,000円(税抜)/3人/社

上記講習では、受講人数が規定よりも多い場合に追加費用が請求されるケースがあるため、注意してください。

カワサキロボットサービス

カワサキロボットサービスでは、ロボット購入者向けの教示や検査講習を行っています。各講習の内容は以下の通りです。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
ハンドリング 学科と実技 標準コース:3日

経験者コース:2日

要相談
塗装 学科と実技 標準コース:3日

経験者コース:2日

要相談
duAro 学科と実技 標準コース:3日

標準コース+ビジョン:4日

要相談

ハンドリングや塗装などロボットの用途別にコースがわかれており、さらにロボットへの知識や習熟度でも分類されています。教示と検査コースをまとめて受講する5日間プランもあります。なお各講習の費用は、別途問い合わせが必要です。

セイコーエプソン株式会社

セイコーエプソン株式会社では、教示に関する特別教育として「導入トレーニングコース」「安全教育コース」を、検査に関する特別教育として「メンテナンスコース」を開催しています。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
導入トレーニングコース 学科(オンライン)と実技 2日 38,500円(税込)/人
安全教育コース 学科と実技 1日 33,000円(税込)/人
メンテナンスコース 学科と実技 2日 38,500円(税込)/人

安全教育コースは不定期開催のため、事前に問い合わせが必要です。また、セイコーエプソンのロボット購入者の場合は、1~2人の受講が無料となります。

専門の教育機関での受講

ロボットテクニカルセンターでも、特別教育を実施しています。ロボットテクニカルセンターでは、「教示コース」と教示と検査に関する特別教育を受けられる「教育コース」の2つを開催しています。

コース名 特別教育の内容 受講日数 費用
安全特別教示コース 学科と実技 2日 33,000円(税込)/人
安全特別教育コース 学科と実技 3日 38,500円(税込)/人

また実技で使用するロボットは各センターによって異なるため、問い合わせるとよいでしょう。

資格取得に関する抑えておきたいポイント

特別教育の受講者には、産業用ロボットの資格が与えられます。ここでは資格取得に関して覚えておくべきポイントを3つ紹介します。

特別教育 修了証発行は履歴書へ記入

特別教育を受講し修了証が発行された場合、受講者は国家資格として履歴書に記載できます。

通常の資格と同じように記載しますが、最後に「修了」という文言が必要です。

【履歴書の資格欄に記載する内容】

  • 受講完了年月日
  • 資格の正式名称
  • 「修了」という文言

技能講習を実施した機関から発行される「修了証」が証明書類となりますので、無くさないようにしましょう。

必要な特別教育を実施しない企業への罰則

労働安全衛生法第119条により、必要な特別教育を従業員に受けさせない企業には、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑が企業に科せられます。

なお、両罰規定により資格がないまま作業を行った者も罰則が科されます。企業および従業員は業務内容をしっかり確認しましょう。

業務内容により受講する特別教育が異なる

産業用ロボット特別教育は、教示業務と検査業務により内容が異なります。事業者は産業用ロボットに関わる各従業員がどの業務を行っているか把握し、適切な教育を受けさせなければなりません。

また、出力が80W以下の協働ロボットの従業員は特別教育は必要ありません。特別教育が必要な環境かどうかもしっかりと確認しましょう。

産業用ロボット特別教育を受講前の企業側の準備

ここでは、産業用ロボット特別教育を受講する前の企業側の準備事項を解説します。従業員に必要な教育を受けさせるため、どのような準備が必要かしっかり確認しましょう。

習得スキルに合わせてカリキュラムを選ぶ

産業用ロボット特別教育は、教育機関によりカリキュラムが異なります。例えば基礎的な内容を網羅したカリキュラムから、まったくロボットに触れたことがない初心者向けのカリキュラムまでさまざまです。またアークや溶接などの特殊技能と一緒に学べるカリキュラムもあります。

事業者は将来的に必要となる知識や技能の観点から、適切な特別教育を選ぶとよいでしょう。

対象社員への学習目的の伝達とサポート

産業用ロボットの特別教育は、危険な作業に従事する従業員の安全のために必要な教育です。そのため従業員自身が受講目的をしっかり認識することで、学習効果が上がります。

そのため従業員の学習意欲が高まるように、企業は学習目的やメリットを伝え、追加の技術研修や実技経験の機会を与えるといったサポートを行うとよいでしょう。

コスト把握と受講費用の調整

産業用ロボットの特別教育が必要な人数は、工場の規模や生産システムにより異なります。1人あたりの受講費用を提示している教育機関がほとんどですので、あらかじめ特別教育にかかるコストを把握しておきましょう。

また、産業用ロボットを導入する際に利用できる助成制度のなかには、技術導入費や研修費が対象となるものがあります。産業用ロボット導入向けの助成制度は、以下が有名です。

  • ものづくり補助金
  • ロボット導入実証事業
  • IT導入補助金
  • 事業再構築補助金

いずれの制度も厳格な規定がありますが、助成金が承認されればコスト削減に期待できます。あらかじめ適用可能か確認しておきましょう。

まとめ

産業用ロボットを扱う業務を行う場合、特別教育を受講し修了証を得る必要があります。専門の教育機関にはそれぞれ特色があり、かかる費用や日数が異なります。

事業者は自社工場の環境や従業員の業務内容を把握し、どのような教育を受けさせるのかしっかり検討しましょう。