スマートファクトリーとは?導入事例や注意点も詳しく紹介

経済産業省が発行したスマートファクトリーロードマップにより、多くの製造産業の企業がスマートファクトリーに注目し、導入を進めています。

この記事では、スマートファクトリーの意味やメリット・デメリット、導入事例を詳しく解説します。最後まで読めば、スマートファクトリーについてひと通り理解できますので、ぜひご覧ください。

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、IoT・AI・クラウド・ビッグデータなどの先端デジタル技術を活用し、従来よりも高度な効率化を追求した工場を指します。

生産工程の自動化だけではなく、商品企画や設計・アフターサービスなどを含む販売プロセスをネットワークでつなぐ点が特徴です。

スマートファクトリーの概念

スマートファクトリーの概念は、ドイツ政府が提唱した「インダストリー4.0(第4次産業革命)」に基づいています。スマートファクトリーを検討するにあたり、まずはインダストリー4.0について学んでいきましょう。

「インダストリー4.0」から生まれた

スマートファクトリーは、ドイツ政府が推し進めている製造業のデジタル化である「インダストリー4.0」から生まれました。

インダストリー4.0は、ITによる生産工程の自動化「インダストリー3.0」の次の産業ステージに位置づけられており、AIやビッグデータなどの先進技術と生産システムをネットワークで連携し、生産工程だけではなく製品の開発やサービスも最適化する産業のあり方です。

「インダストリー4.0」の4つの設計原則

インダストリー4.0は、4つの設計原則に基づきます。具体的には、以下の4つです。

  • 相互運用性
  • 情報透明性
  • 技術的補助
  • 分散型決定

「相互運用性」は、設備やシステムをつなぐネットワークを指します。データや状況を共有し連携することで、迅速な意思決定とアクションが可能です。

また「情報透明性」も、インダストリー4.0には欠かせません。センサー等から得られた情報は、問題の改善や市場ニーズの分析などに活用されます。

しかし、膨大なデータを人間が処理するには限界があります。そこでAIやIoTなどの「技術的補助」により、作業員の負担軽減が可能です。例えば生産工程で危険な作業をロボットが代替する場合が、技術的補助に含まれます。

最後に「分散型決定」は、人間の承認が必要な場合や安全に関わる内容を除き、AI等が状況を判断し意思決定する仕組みのことです。分散型決定により、状況に応じた迅速な対応が可能となります。

これらの設計原則を具体化したシステムが、スマートファクトリーです。

製造業でスマートファクトリーが必要な理由

スマートファクトリーが製造業で必要とされる理由は、人手不足の解消に有効と考えられているからです。

少子化や若年層の製造業への就職率低下などにより、製造業では人手不足が深刻化しています。人手不足を解決するために、ロボットにより自律的に管理できるスマートファクトリーの活用が多くの企業で検討されています。

スマートファクトリーロードマップ

スマートファクトリーをどのように現場に実現させるか、目標や課題に沿ってしっかり検討しなければなりません。そこで経済産業省はノウハウや知識に依らずすべての企業が工場の「スマート化」を自ら進められるように、「スマートファクトリーロードマップ」を公開しています。

スマートファクトリーロードマップでは、以下のようにスマート化(データ活用)のレベルごとに達成基準や方向性が示されています。

レベル1 レベル2 レベル3
データの収集・蓄積

  • 有益な情報の収集
  • 状況の見える化
  • ノウハウの蓄積
データによる分析・予測

  • 情報の分析や学習
  • 原因の抽出
  • 事象モデルの構築・予測
データによる制御・最適化

  • データによる予測や分析から最適な判断やアクションの実行

参考経済産業省 スマートファクトリーロードマップ

また各ステップの内容は、コストの削減や人材不足への対応などの企業が抱える7つの課題ごとに細かく決められています。自社の課題と各ロードマップの内容を照らし合わせ、最終レベルの「最適化」に向けて戦略を立てていきましょう。

スマートファクトリーのメリット・デメリット

スマートファクトリーを導入すれば、企業が抱える多くの問題を解消できます。しかし、メリットだけでなくデメリットもあるため、導入前には双方向からよく検討することが大切です。ここでは、スマートファクトリーのメリットとデメリットを紹介します。

メリット

スマートファクトリーのメリットは、生産効率が大幅に向上する点です。生産量が増加するだけではなく、生産プロセスに柔軟性が生まれるため、カスタムオーダーや少数ロットへの臨機応変な対応も容易になります。

さらに、ビッグデータやAIの活用により、商品の品質管理や在庫状況、機械の状態が詳細にわかるようになります。そのため従来では人の経験に頼る必要があった発注業務を自動化できるため、作業員の業務負担を大きく減らせるメリットもあります。

また、ロボット導入や生産ラインの自動化により、人間が行うには危険な作業や過酷な労働環境が機械により置き換わります。そのため労働環境の改善や人的ミスの削減も期待できます。

デメリット

スマートファクトリーのデメリットは、導入に多大なコストがかかる点です。機械やセンサーの導入に加え、それらをネットワークで接続するシステムも要します。例えば工場の設備や装置をIoT化し情報を共有するOPCサーバ導入は、1本あたりおよそ20万円ほどのコストが必要で、さらに保守費用もかかります。

また、工場がさまざまな設備や企業とネットワークでつながることで、サイバー攻撃のリスクも上がります。

スマートファクトリーの導入事例

あらゆる業界の企業がスマートファクトリーの導入に成功しています。ここでは、スマートファクトリーの導入事例を紹介します。

京セラ株式会社

京セラ株式会社では「生産性倍増プロジェクト」を推進するために、ファインセラミックスの生産ラインの改善に取り組みました。その一環で自律化ラインを実現するため、京セラは以下のIBM社のシステムを導入しデジタル・プラットフォームの構築を行いました。

  • GIView Planner:最適な生産計画やリソース計画を立案するスケジューラー
  • MES Express:製造計画立案や設備制御など、製造現場と経営情報を結ぶシステム
  • CFC analysis platform:生産現場のIoTデータの収集やリアルタイム分析を行うプラットフォーム
  • IBM Cloud Pak for Data:社内データの連携・格納・加工・分析・モデル管理を担うデータ活用基盤

これらのシステムを導入した結果、製造工程における問題点の発見・改善につながり、良品生産が6%近く向上しました。

日産自動車・栃木工場

日産自動車では自動車製造での作業員の不足により、定期点検作業や突発的な設備故障に対する対応で課題を抱えていました。さらに、人員の入れ替えにより、ベテラン保全員の勘やスキルに頼っていた体制に限界が生じていました。

そこで以下のシステムを導入し、工場設備の予知予防保全が可能なスマートファクトリーを構築しました。

  • 診断センサHUB:無線のデータ送信機能を備えたデバイス
  • Field Storage:各設備のデータをOPC-UA規格へ変換するデータ変換器
  • MASTER CBM:診断ロジック作成・自動診断・診断結果の表示機能を備えたプラットフォーム

上記システムを組み合わせ、集中管理室からリモートで現場の工場に復旧指示が出せる仕組みを構築。これにより従来と比べ、設備故障からの復旧時間を30%削減することに成功しました。

株式会社エクセディ

株式会社エクセディでは、自動車部品業界における競争の激化に対応するために、世界20ヵ国以上にある工場の情報をタイムラグなく把握できる仕組みの構築が急務となっていました。

そこで国内外のすべてのAT拠点に以下のシステムが導入され、各地の工場オペレーションと設備の予知予防保全を進めました。

  • EXPRESS:拠点別の品質関連情報をリアルタイムに集中管理できる生産技術システム
  • RE-IS:IoTを駆使した基幹業務システム
  • VPS:熟練技術者のノウハウを継承する教育ツール

上記のシステムにより各拠点別の詳細な出来高や稼働状況を把握できるほか、設備の予知・予防保全と自動生産ラインにおける省人化に成功。また、教育ツールを人材育成に活用することで、組立作業が34%もスピードアップといった業務改善も実現できました。

スマートファクトリー導入の注意点

スマートファクトリーを導入する際に注意するべき点は、以下の3つです。

  • スマートファクトリーの効果的な運用には時間がかかる
  • 小規模での導入・検証を繰り返し改善が必要
  • システムの定着には従業員の意識改革が重要

スマートファクトリーの導入前には、各企業の目標に合ったロードマップ作成と社内体制の変更や再構築が必要です。また、小規模での運用試験による実証と改善を繰り返し、システムの運用に問題がないかを確認しなければなりません。そのため、スマートファクトリーの効果的な運用には、年単位の時間がかかる点に十分注意しましょう。

スマートファクトリーの定着には、新システムを積極的に利用するよう従業員への意識改革やモチベーションアップを行う必要があります。そのためには、社内外の各部門との調整やシステム推進役を担う専門チームを組織するなど、体制面でのサポートも重要です。

まとめ

スマートファクトリーを実現すれば、設備や生産ライン・販売や企画など従来分離していた部門間を1つのネットワークでつなぐことができ、製品の効率的な生産が可能になります。しかし、効果が最大限に発揮されるには、新しい設備への投資だけではなく、段階的な導入や検証が必要です。

スマートファクトリーの導入を成功させるためにも、導入前にしっかりと計画を立て、自社製品や環境に合った効率的な生産システムを構築しましょう。