産業用ロボットの運用には、資格が必要です。そのため、学べる内容や講習を実施している機関など、詳しく知りたい方も多いでしょう。
今回は、産業用ロボットの資格内容や種類、おすすめの実施機関を紹介します。本記事を読むことで、資格取得に必要な費用や日程が把握でき、スケジューリングや必要なコストを算出できるようになるでしょう。産業用ロボットを導入予定の事業者の皆さまは、ぜひ最後までご覧ください。
目次
産業用ロボットの資格とは?
産業用ロボットの資格とは、労働安全衛生規則で定められた「産業用ロボットの教示(検査)等の業務に係る特別教育」のことです。産業用ロボットの業務に携わる作業員全員に、特別教育の受講が義務付けられています。また同法により、事業者が作業員へ教育を行わなければならないことも定められています。
教育が必要な理由として、運用方法に誤りが生じた場合や、人為的ミスにより重大な労働災害につながる恐れがあるためです。
産業用ロボットを適切に運用するためにも、資格取得を通じて、産業用ロボットの正しい操作方法や、メンテナンス関連の知識習得が必要です。
産業用ロボットに資格が必要なケースと不要なケース
産業用ロボットの種類によって、資格が必要なものもあれば無資格で運用できるロボットもあります。ここでは、資格が必要なケースと不要なケースに分けて詳しく解説します。
作業に関わるロボットによって資格の要否が異なる
一部例外を除いて、基本的には産業用ロボットを扱うすべての作業員に対して、資格の取得が義務付けられています。具体的には、以下のようなマニプレータの上下移動・旋回動作を自動で行えるロボットには、資格が必要です。
- パラレルリンクロボット
- スカラロボット
- 円筒座標ロボット
上記のような運搬や溶接で使われる「出力の高いロボット」の場合、作業員が巻き込まれてしまうと重大事故が発生します。そのため、けがや死亡リスクが高いロボットを安全に運用するうえで、特別教育の受講が必要です。
ただし産業用ロボットは、出力の高さによって資格の要否が異なります。次に解説する「資格が不要なケース」についても、あわせてチェックしておきましょう。
資格のいらない産業用ロボットとは
資格が必要ない産業用ロボットの条件は、以下の通りです。
- 駆動用原動機の定格出力が80W以下の機械
- 固定シーケンス制御装置の情報に基づきマニプレータの一定の動作の単調な繰り返しを行う機械
- 構造等からみて労働者に危険が生じるおそれがないと労働省労働基準局長が認めた機械
引用労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について/厚生労働省
出力が80W以下のロボットは「協働ロボット」と呼ばれ、資格を取得していなくても使用可能です。協働ロボットには緩衝材の設置や自動停止プログラムが組み込まれており、人と接触しても負傷するリスクが低くなるように設計されています。
そのため協働ロボットは産業用ロボットのなかでも安全性が高く、資格を持っていない人でも扱ってもよいとされています。
特別教育の内容と種類
産業用ロボットの特別教育は、以下の2種類です。
- 教示に関する特別教育
- 検査に関する特別教育
どちらも学科と実技が組み込まれています。学科は座学形式で産業用ロボットの仕組み等を学び、一方で実技は実際に産業用ロボットを用いて操作方法等を身につけます。
以下で、教示と検査に関する特別教育の内容について紹介するので、参考にしてください。
教示に関する特別教育
教示に関する特別教育では、以下のようなカリキュラムが組まれています。
- 産業用ロボットに関する知識
- 産業用ロボットの安全管理・関係法令
- マクロ命令・位置データと座標系
- プログラム応用例・制御命令
- ハンドリングプログラム例の実習
ティーチング作業中の事故防止のために、座学と演習を通じて正しいロボットの制御方法やプログラミング方法を学びます。
検査に関する特別教育
検査に関する特別教育では、以下のような内容について学びます。
- 産業用ロボットの種類・制御方式・駆動方式・各部の構造および機能並びに取り扱いの方法・制御部品の種類および特性
- 検査等の作業方法・作業の危険性・関連機械との連動方法
- 法・令および安衛則中の関係条項
- 産業用ロボットの操作方法・検査等の作業方法
産業用ロボットの検査に関する知識や関係法令、操作や検査方法を習得します。
特別教育の受講方法と費用
産業用ロボット特別教育の教示・検査の受講方法と費用相場は、以下の通りです。
特別教育の種類 | 受講方法 | 受講費用相場 |
---|---|---|
教示 | 学科:オフライン・オンライン
実技:オフライン |
3〜6万円 |
検査 | 学科:オフライン・オンライン
実技:オフライン |
3〜5万円 |
表に記載している費用は大まかな平均額なので、受講する際は費用の詳細を確認する必要があります。以下で受講場所や日程について解説します。
受講場所と日程
受講場所は、各都道府県の労働基準協会連合会または産業用ロボットメーカーが主です。基本的に都道府県労働基準協会連合会では学科のみであるため、実技を受講する際は別途産業用ロボットメーカーに依頼する必要があります。
また特別教育の実施日程は、1〜2日程度が一般的です。ただし実施機関のなかには4日間で組まれている機関もあるため、短期間で受講したい場合には注意しましょう。
メーカーによっては毎月特別教育を実施している場合もありますが、特定の月しか実施していないメーカーもあります。受講を希望する際は、メーカーの開催カレンダーで受講したい月に開催しているか確認をするとよいでしょう。
費用相場
実施機関によって受講費用は異なりますが、およそ3〜6万円が相場です。
ただしファナックの「ロボット教示・基本操作コース」の受講費用は11万円で、静岡県の労働基準協会連合会の特別教育は1.2万円(税込)です。これらのようにメーカーや受講内容によって価格が相場よりも離れる場合があります。そのため各実施期間の受講内容と費用をよく確認のうえ、申し込むようにしましょう。
おすすめの実施機関
産業用ロボットの特別教育は、さまざまな機関で受講できます。ここでは、以下の実施機関について紹介します。
- 日本サポートシステム株式会社
- 松栄テクノサービス株式会社
- 一般社団法人HCI-RT協会
- 株式会社ロボットテクニカルセンター
それぞれの価格や受講内容を解説するので、受講を検討する際の参考にしましょう。
日本サポートシステム株式会社
「日本サポートシステム株式会社」の特別教育では、豊富な知見を有した「ロボットSler」が講師として指導を行います。
実技で使用するロボットは、希望するメーカーから選択可能です。そのため、自社で取り入れているメーカーのロボットと同じ感覚で講習を受けられる点が特徴です。
日本サポートシステムでの特別教育では、以下の表のように教示と検査のセットや、学科や実技を個別に提供するプランなど、講習を受ける人のニーズに合わせたプランを用意しています。
受講コース | 受講料 |
---|---|
教示コース学科+実技5時間プラン | 60,500円(税込) |
教示コース学科+個別貸切プラン | 44,000円(税込) |
教示(検査)コース学科+実技 | 38,500円(税込) |
教示(検査)コース学科のみ | 22,000円(税込) |
教示(検査)コース実技のみ | 33,000円(税込) |
日本サポートシステムでは産業用ロボットの貸切サービスを提供しており、ロボットの検証作業や試験対策に利用可能です。また学科はオンデマンドでの受講にも対応しており、時間や場所を選ばずに受講できる体制が整っています。
松栄テクノサービス株式会社
「松栄テクノサービス株式会社」の特別教育では、産業用ロボット大手のファナック社製のロボットを用いて講習を受けられます。
また受講日数は最短1.5日と業界屈指の短さのため、業務スケジュールの中へ組み込みやすい点も魅力です。受講料は、1人あたり35,200円(税込)です。
毎月定期的に開催されていますが、設定されている開催日以外でもリクエストを送れば個別で対応してもらえます。
一般社団法人HCI-RT協会
「一般社団法人HCI-RT協会」の特別教育では、産業用ロボットの設計や組み立てなどに精通したロボットシステムインテグレータから直接学べます。
また三菱電機やファナック、安川電機など国内の主要メーカーのロボットを使用しての実技指導を行っています。以下の表にて、各コースと受講料金をまとめました。
受講コース | 受講料 |
---|---|
教示コース | 29,000円(税別) |
教示・検査コース | 35,000円(税別) |
講習日数は教示コースが2日間で、教示・検査コースが3日間です。応募の際は講習スケジュールを確認し、受講コースに間違いがないか注意しましょう。
株式会社ロボットテクニカルセンター
「株式会社ロボットテクニカルセンター」の特別教育では、ロボットSlerの高丸工業とメーカー向け専門商社のジーネットが連携し、産業用ロボットの知識やノウハウを提供しています。
講習では国内の主要メーカーからロボットを選択して受講できるほか、実際にロボットを操作して使用方法や注意点を学べます。ロボットテクニカルセンターで受講できるコースは、以下の通りです。
受講コース | 受講料 |
---|---|
安全特別教育コース | 38,500円(税込) |
安全特別教示コース | 33,000円(税込) |
基本1日コース | 55,000円(税込) |
安全特別教育出張コース | 33,000〜38,500円(税込) |
上記のうち、「基本1日コース」は少人数講座であるため、講師に質問しやすく疑問をすぐに解決できる環境で学べます。また各講習の修了後にはロボット操作の練習が可能で、確実にスキルを定着できます。
導入検討時の教育コストへの考慮とポイント
産業用ロボットの導入時には、教育コストも考慮する必要があります。ここでは、ロボットを導入する際の教育コストのポイントを3つ解説します。
受講者へのサポート
産業用ロボットの特別教育を修了しても、すぐに実務で活躍できるレベルに達しているとは限りません。実務でも活かせるレベルに達するまでには、ある程度の期間を設けて経験を積ませる必要があります。
講習を行っている機関のなかには、修了後もロボット操作の練習ができるところもあります。導入後の大きな事故を防ぐためにも、活用を検討しましょう。
労働安全衛生法に準拠する
産業用ロボットの普及と同時に、ロボットとの接触による作業員のけがも増えています。事故を防ぐためには、ロボットに関わるすべての作業員が「労働安全衛生法」を正しく理解し、安全確保に努めなければなりません。
例えば労働安全衛生法では、産業用ロボットの使用方法や設置基準、点検内容について、細かく記載されています。導入をスムーズに進めるうえで、事業者側は労働安全衛生法に従い、すべての規定を正しく理解しておくとよいでしょう。また作業員に対しては、特別教育を通じて各規定に関する知識の定着を図りましょう。
作業者の保護を重視
産業用ロボットを用いた業務には危険がともなうため、作業者に対する安全教育を行う必要があります。また事業者自身がロボットの危険性や正しい取り扱い方を理解しておくことも重要です。
産業用ロボットの稼働率や効率を重視するあまり、作業員の安全面は疎かになりがちです。事故が起きてしまうと大きな損失を被るリスクがあるため、作業者の保護を優先するためにも自社の規定を整備するとともに、作業者への特別教育の受講を進めるようにしましょう。
まとめ
産業用ロボットの運用には、「産業用ロボットの教示(検査)等の業務に係る特別教育」の受講が必須です。操作の誤りや、人為的ミスによる事故防止を防ぐために、適切な操作方法を身につける必要があります。
また産業用ロボットの特別教育は、各都道府県の労働基準協会連合会または産業用ロボットメーカーで受講可能です。危険な作業のリスクを少しでも減らすためにも、作業者への産業用ロボット用の資格取得を進めていきましょう。

