工場の自動化とは?成功事例やメリット・デメリットまで

近年、日本において工場の自動化が徐々に進められています。この記事では、工場の自動化が進む理由や現在工場が抱えている課題、自動化の成功事例やメリット・デメリットについて詳しくまとめました。

工場の自動化とは

工場の自動化とは、工場内における生産に関わる各工程を、システムやロボットの導入によって自動で各工程を行えるようにすることです。

工場の自動化は、ハードウェアによる自動化とソフトウェアによる自動化の2種類が主となります。

ハードウェアによる自動化

まず、ハードウェアによる自動化とは、人間に負荷のかかる運搬作業や疲労の激しい単純作業をロボットで代替することです。具体例として、ベルトコンベアーによる搬送や垂直多関節ロボットによる作業の自動化などが挙げられます。これにより、重たいものを運ぶ運搬作業や疲労が積み重なる単純作業などをロボットに代替してもらうことで作業者の負担を軽減することが可能となります。

ソフトウェアによる自動化

ソフトウェアによる自動化は、生産システムや人工知能などを導入し、手作業で行っていた作業を代替することです。具体例として、センサーにおけるデータ解析の自動化などが挙げられます。これにより、人間では感知できない異常の検知や下すことのできない高度な判断などが可能となるだけでなく、従業員をサポートしてくれる機能も搭載できます。

工場の自動化では、ハードウェアとソフトウェアの両方を融合して実現していく必要がありますが、アナログ的な業務の多い日本の工場で自動化を進めていくのは決して簡単なことではありません。しかし、工場の自動化は日本の問題点を解消しつつ工場の生産性も高めることができる革新的な試みです。

工場の自動化が進む理由

ここまで、工場の自動化に関する概要とその種類について簡単に説明してきました。ここからは、なぜ日本において工場の自動化が進んでいるかについての理由を、主な2点に分けて述べていきます。

①深刻な人材不足

製造業の就業者数は約20年間で157万人も減少し、全産業に占める製造業の就業者割合も約20年間で3.4ポイントも低下しています。また、製造業における若年就業者数も約20年間で121万人減少しており、製造業をはじめとした工場における人材不足が深刻となっています。

②技術継承の問題

製造業において指導人材が不足している事業所が6割を超えています。また、技能継承のために退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長や嘱託による再雇用を行って指導者として活用している事業所が約6割となっており、人材育成において苦しい状況が発生しています。

今抱えている工場の課題とは

工場の自動化が進む理由について考察したところ、日本の工場は人材不足や技術継承などの問題点を解決しようとする形で自動化を取り入れていることが分かってきました。そこで、現在日本の工場が抱えている他の問題についても何点か掘り下げていきます。

①コストの増加

ウクライナ情勢の緊迫により、以前から上昇傾向にあった原油価格が更に高騰し、素材系の業種を中心に生産コストの増加につながっています。

②素材不足

2021年ごろから様々な部素材の不足が発生し、特に半導体不足の影響は加工組立製造業だけでなく、基礎素材製造業まで幅広い業種にわたって及んでいます。

③サイバーセキュリティ対策

近年において、中小企業も含めた業界全体のサイバーセキュリティ対策が重要性を増していますが、ウイルス対策ソフトなどの既存の対策ではサイバー攻撃やウイルスなどの脅威を防ぎきれていないのが実態です。

④人材不足

人材不足は少子高齢化以外にも人材の流動化が大きな原因となっています。

終身雇用制が崩壊しつつある現在では、特に高度な技術を持った人材が海外の製造業やIT企業へ流出してしまうケースが増加しています。

工場の自動化に成功した事例

現在の日本において、工場の自動化に成功した企業は数多く存在します。そこで、実際に工場の自動化に成功した8つの事例について、自動化の方法と導入による効果を交えながらまとめてみました。

①医療機器の仕分けと積み荷を自動化し生産性向上と人員削減を実現

医療機器メーカーでは、製品の出荷工程は手作業で行っていましたが、重たい製品の仕分けや積み荷は疲労が積み重なることが問題でした。そこで、出荷工程に協働ロボットとパレットストレージを導入し作業工程の流れを完全に自動化したところ、労働生産性は1.5倍増加し、工程に必要な人数は6人から4人に削減することができました。

②高度精密生産品の製造において生産性向上と完全無菌化を実現

化粧品メーカーでは、マイクロニードル製品の生産にロボットを導入しました。マイクロニードル製品の製造工程は精密かつ複雑なため少ない数しか生産できないことが課題でしたが、ロボット導入後は労働生産性が4倍も向上しました。また、工程に必要な人数も8人から2人へと大きく減少したほか、ロボットが製造することにより完全無菌化に成功したことも大きなメリットです。

③繊細で複雑な全ての工程をロボットで自動化し短納期と生産性向上を実現

化粧用ブラシを製造する会社では、作業工程を全て手作業で行っていましたが、職人の高齢化や市場競争によるコストダウンなどが課題でした。そこで、全ての工程をロボットで自動化した結果、労働生産性は30倍も増加し、工程に必要な人数を6人から2人に削減することができました。

④物流倉庫のピッキングと搬送を自走式ロボットに一任し生産性向上と人員削減を実現

物流サービス業の会社では、倉庫のピッキングに自走式ロボットを導入すれば自動化できると考え、ピッキング作業の完全自動化を目指しました。その結果、ピッキング作業から搬送までロボットが全て行えるようになり、生産労働性は1.6倍増加し、作業に必要な人数を18人から11人に削減することができました。

⑤箱詰め作業を多関節ロボットで自動化し生産性向上と人員削減を実現

印刷関連の事業を展開する会社では、人が手作業で製品を箱詰めしていましたが、従業員によって生産数にばらつきが生じていたため、生産数の把握が難しく非効率的であることが課題でした。そこで、箱詰め作業工程に多関節ロボットを導入し箱詰め作業を自動化したところ、生産数は2倍に増加しました。また、労働生産性は5倍増加し、作業に必要な人数も4人から2人に削減することができました。

⑥食品成型・包装工程を自動化し生産性向上と人員削減を実現

食品メーカーでは、チーズ製造用設備の導入による生産性向上を目標に掲げ、成型工程と袋詰・包装工程の自動化を推し進めました。その結果、生産性が1.4から2.2倍にわたって増加し、工程に必要な人数も13人から9人に削減することができました。また、新しく導入した成型機は形がきれいに出るため、食品ロス削減にも期待がかかります。

⑦自動搬送ロボット導入により省人化と接客サービスの効率化を実現

日本料理店の運営会社では、料亭における人員不足の改善やサービス付加価値向上を図るため、料理の搬送作業に自動搬送ロボットを導入しました。その結果、搬送に割いていた人員を接客接遇に回すことができるようになりました。また、労働生産性も1.2倍向上したほか、安全に配慮した運用マニュアルの作成により多店舗展開の基礎を確立できました。

⑧レトルトパウチ製品整列作業を自動化し、省人化と安定供給を実現

食品メーカーでは、レトルトパウチ製品が殺菌中における水流と浮遊により配列が乱れた状態となるため、パウチの包装機への供給は熟練担当者による手作業で行っていました。

そこで、供給用ロボットに高性能カメラの画像処理技術を組み合わせた自動化を行った結果、パウチ供給作業は3名から1名への省人化が実現しました。また、熟練担当者に頼ることなく安定した供給も可能となりました。

工場を自動化するメリット

ここまで、工場の自動化に成功した事例について詳しく説明してきました。その中で浮かび上がった、自動化の成功事例において共通するメリットについてを4点にまとめてみました。

①ヒューマンエラーを無くして品質が安定する

人の手作業では、どうしても品質にばらつきがでてしまうほか、ヒューマンエラーによる不良品発生も完全に防ぐことはできません。

そこで、最新の機械設備やロボットの導入による自動化を進めることで、手作業による品質の不安定さをなくし、ヒューマンエラーのリスクを減らすことができます。また、安定した業務の維持管理ができるほか、手作業で取り組むよりも効率的に生産できるようになるため、高品質な製品の安定供給と労働生産性の向上が見込まれます。

②人材不足を解消できる

日本の製造業では、人手不足が深刻化していますが、システムやロボットの導入で工場を自動化できれば、少ない人数で高い生産性を保てるため、作業の省人化が実現し人手不足の改善が可能となります。また、危険な作業や重労働を機械やロボットに任せることができることもメリットです。さらに、夜間勤務や残業、休日出勤の回数も少なくなるなど、従業員の働き方改革にもつながります。

しかし、工場の自動化が実現しても完全に人が必要なくなるわけではありません。工場の自動化は、人と機械との業務分担を意味する取り組みであり、システムや機械の点検、運営などにはまだまだ多くの人の力が必要不可欠です。

③工場稼働率を上げられる

工場を自動化すれば、365日24時間稼働が可能になります。工場内の管理も少ない人数で対応出来るようになるため、従業員のシフトによって生産ラインを停止することなく安定した生産が可能となります。工場の自動化は、人手不足問題の解消と工場稼働率の上昇、さらに生産性の向上のすべてを両立して目指すことができます。

④従業員の負担や労災リスクが減る

工場の自動化では、重労働や危険性の高い作業を機械やロボットに任せられるため、従業員の負担や労災リスクが減ることも大きなメリットです。

作業環境が改善されれば生産性が向上し、離職率も減少します。工場の自動化は、従業員にとって働きやすい環境を得ることができます。

工場を自動化するデメリット

工場の自動化はシステムやロボット導入が必須となり、特に大型ロボットの導入は初期費用の負担が大きいことがデメリットです。ただし、工場の自動化が実現することによって得られるメリットを考えると、自動化に取り組む価値は十分にあります。長期的に見ると大きな利益を生む取り組みであるため、初期費用の負担だけで判断せずに考える必要があります。

まとめ

このように、工場の自動化には様々な背景や要因、導入によるメリット・デメリットが存在します。日本の製造業では、人手不足やその結果発生する過労が大きな問題となっています。そこで、機械やロボットによって業務の省人化が実現すれば、少ない人数でも高い生産性を確保できます。実際に工場の自動化を進めた日本企業の事例を見てみると、自動化に成功し労働問題や安全問題、コスト問題など、さまざまな課題を解消し企業利益を高めています。また、工場の自動化によって完全に人の仕事が失われることもなく、短期的なコストは発生するものの長期的な視点では大きな企業利益を生み出すことができます。工場の自動化の導入に迷っている企業は、このような背景や要因を理解したうえで自動化を推進してみてはいかがでしょうか。

参照
2022年版 ものづくり白書
工場自動化の展望は?最新技術を体感するショールームも紹介
工場における工程自動化とは?4社の事例を紹介
ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018
工場の人手不足をどうする? 原因と対策方法
工場の自動化に成功した企業の事例5つ【導入メリットやデメリット】