産業用ロボットとは?定義や種類・サービスロボットとの違い

昨今の人手不足を補うため、様々な工場で導入されている産業用ロボット。
良好な品質を保てるほか、危険な作業を代わりに行ってくれるなど、メリットも多いです。
この記事では、産業用ロボットが活用される場面や、どのような種類があるのか知ることができます。それではまず、産業用ロボットとは何か見ていきましょう。

産業用ロボットの定義とは

まず始めに、どのような機械を産業用ロボットと呼ぶのかご存じでしょうか?産業用ロボットは、工場で使われることが多く、今まで人間が行っていた加工や組立、洗浄、バリ取りなどの作業も担っています。
これだけでは少し分かりづらいかもしれませんので、具体的にJIS(日本産業規格)や法律で定められている産業用ロボットの定義についてお伝えします。

【JIS B 0134】

  • 自動制御されている
  • 3軸以上でプログラム可能である
  • 再プログラム可能である
  • 多目的なマニプレーション機能(※)をもっている
  • 一か所に固定する、又は移動機能をもっている

※産業用ロボットのアーム部分のこと。人間の腕にあたる。

【JIS B 8433-1】
産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、3 軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニプレータ。

注記 1
産業用ロボットは、次を含む。
- マニプレータ(アクチュエータを含む)。
- 教示ペンダントを含む制御装置、及び通信インタフェース(ハードウェア及びソフトウェア)。

注記 2
ロボットコントローラによって制御されるあらゆる追加軸を含む。

注記 3
この規格の目的では、次の装置を産業用ロボットとみなす。
- ハンドガイドロボット。
- 移動ロボットのマニプレータ部分。
- 協働ロボット。

引用「機能安全活用実践マニュアル ロボットシステム編 」/厚生労働省(令和5年3月3日)

【労働安全衛生法】
マニプレータ及び記憶装置(可変シーケンス制御装置及び固定シーケンス制御装置を含む。)を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械で、研究開発中のものその他労働大臣が定めるものを除いたものとしたこと。(第36条第31号関係)

引用「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」安全衛生情報センター(令和5年3月2日)

上記のような特徴を持っており、産業自動化に用いられるロボットのことを指します。

産業用ロボットとサービスロボットとの違い

産業用ロボットと特徴が似ているのがサービスロボットです。主に人型ロボットがそれに当たりますが、ファミリーレストランで食事を運んでくれるロボットを見たことがある方もいるのではないでしょうか?その他にもレスキューロボットやパワーアシストもサービスロボットに含まれます。

産業用ロボットは工場などで人の作業を代わりに行うのに対して、サービスロボットは人の生活上での困りごとを手伝ってくれます。サービスロボットは作業を「代替」するのではなく「支援」するのです。

産業用ロボットの活用シーン

産業用ロボットは、加工、組立、溶接をはじめとした様々な作業の自動化に活用されています。自動車産業や半導体産業、食品産業や農業など多岐にわたる業界で欠かせない存在です。
日本でいち早く産業用ロボットを導入したのは自動車業界と言われています。自動車業界における産業用ロボットは、日本の発展と日本車ブランドの地位確立に大きく寄与したと言えるでしょう。

産業用ロボットの種類

ひとくちに産業用ロボットといっても、構造によって得意な動きや特徴も変わります。ここでは、構造によって分類されたロボットの種類についてお話ししたいと思います。

垂直多関節ロボット

様々なシーンで使われることが多く、汎用性が高いロボットです。現在、一番よく使われているロボットです。垂直多関節ロボットは人間の腕の動きに近いため、複雑で自由な動きが可能です。
用途に合わせて機種を変えることもできるので、バリエーションも豊富です。その反面、動きの制御が複雑になる場合もあります。
参考垂直多関節ロボットとは

スカラロボット(水平多関節ロボット)

日本生まれのロボットです。Selective Compliance Assembly Robot Armの頭文字を取って、スカラ(SCARA)と名付けられました。水平方向に動く部分と垂直方向に動く先端部分が付いています。真上から作業を行い、組立を得意とするロボットです。
参考スカラロボット(水平多関節ロボット)ロボットとは

パラレルリンクロボット

軽量で、曲げたりねじったりする力に対して変形もしづらい剛性のあるアームが付いています。スピード動作が得意で、ピッキングに用いられることが多いです。
参考パラレルリンクロボットとは

直交ロボット(単軸ロボット)

1つの軸で動くロボットを複数個組み合わせることで必要な動作を叶えたロボットです。構造が簡易的で、安価なことが特徴です。
参考直交ロボット(単軸ロボット)とは

円筒座標ロボット

上下および前後に直線軸で動き、全体をぐるぐると旋回する回転軸を1つ持ったロボットです。
参考円筒座標ロボットとは

双腕ロボット

その名の通り、アームが2本付いているロボットです。アームが2本付いているため、より複雑な作業を行うことが可能です。
参考双腕ロボットとは

極座標ロボット

アームを上下左右に回転させることができ、さらにアームが伸縮するロボットです。アメリカのユニメーション社が世界で初めて製造した産業用ロボット「ユニメート」はこれに分類されます。

プレイバックロボット

人間が実際に機械を動かして教え込んだ動作を教えられた通りに記憶して、繰り返し行うロボットのことです。

協働ロボット

構造により分類されたロボットとは別になりますが、近年では「協働ロボット」という産業用ロボットが活躍しています。一般的な産業用ロボットは、柵やセーフティー機器を取り付けることが必要です。それに対して協働ロボットは、人や物に触れると動作を停止するなどの安全策が講じられているため、人と同じ空間で作業が可能です。
人と一緒に柔軟な作業ができる一方で、出力が制限されるために重い荷物や剛性が求められる加工などの作業が苦手という面もあります。

産業用ロボットの市場

参考平成22年ロボット産業将来市場調査(経済産業省、NEDO)

ロボット産業の市場は、ここ数年で驚異的なスピードで成長しています。2015年には1.6兆円だった市場規模が、2035年に9.7兆円まで成長すると経済産業省は予測しています。そのうち製造分野で使われるロボットは2.7兆円と多くを占めています。前述した人手不足のほか、技術を後継者に伝えるのが困難なこと、安定した数量とクオリティーが求められることが背景に挙げられます。

また、協働ロボットが登場したことにより人とロボットが同じ現場での作業が可能になり、ロボット導入を検討する中小企業が増えてきたのも市場規模拡大の理由の一つと言えるでしょう。

日本の産業用ロボット市場は2017年に輸出額が急激に増加していますが、2019年には大幅に減少しています。その原因には米中貿易摩擦問題が関係していると考えられます。アメリカと中国の間で起きた関税の引き上げ合いで世界中が影響を受けたとみられ、日本も例外ではありませんでした。

それに加えて新型コロナウイルス感染症による影響も大きいです。日本では海外と比べると爆発的な感染拡大はなかったことと、ワクチン接種が遅れたこと。この2つの要因により2020年の国内出荷額が大幅に減少したと考えられます。

しかし、輸出額は増加傾向にあり、貿易摩擦の緩和や新型コロナウイルス感染症をきっかけにロボットへの関心が高まったことが要因として考えられます。

まとめ

産業用ロボットは主に工場で使用されており、危険な作業を代わってくれたり品質を安定させてくれたりします。機械の操作や管理を行う技術者が必要で、導入するのに初期費用がかかるなどのデメリットもある一方、作業員の負担が軽くなるので別の作業に人員を回せますし、安全性も高まるというメリットもあります。今後も作業の自動化が進んでいくことから、さらに需要は増していくでしょう。